敬慕
準決勝戦が終わった後、勝利を果たしたチーム火影はホテルの一室で休息をとっていた。
敵対していたはずの麗(魔)とも和やかな雰囲気でお互いの技を褒めあっていた。
「しかし、ガキだと思っていたのに意外とやるな、小金井。その年と体で月白を倒すとはな」
「ん?」
メンバーから一歩離れた場所で漫画を読んでいた小金井に餓紗喰が話しかけた。
「ほんとだよ、おまけに顔を傷だらけにしてくれて…」
「そっちが先に殴ったからおあいこってことで…」
小金井はさして興味も無さそうに再び漫画に目を落とした。
小金井の体型は年の割には背が低く、体の線もまだまだ細かった。
むしろ同年代に比べれば細すぎる方だろう。
体の筋肉が出来上がらないような幼い頃から大人以上の訓練のおかげで必要最低限の脂肪すら消費されてしまった。
「あぁ、オレも思う!よく鋼金暗器を使いこなせるよな、あれ重くないのか?」
餓紗喰たちに烈火たちが加わり、本人をさしおいて話が盛り上がっていく。
重くないのか?
先ほどの何気ない質問に小金井はそっと眉をひそめた。
重くないのか?そんなの重いに決まっている。
だが大人に比べ、肉体的にハンデが大きい小金井にとって鋼金暗器のように五段階に変化するような武器を使わなければ勝てる戦いも勝てないのだ。
(それに、それぐらいできないと紅麗のそばにいられないしね)
必要ともされない。
家族も友達もいない小金井にとって、麗なんてチームはどうでもよかった。紅麗が麗にいたから自分も麗にいた。ただそれだけのこと。
(ほんとはもっと強かったらよかったのに…)
いくら強くなろうとしても紅麗の絶対的な強さにはかなわない。
手が届かないとか鍛え方が違うなどのレベルの問題ではないのだ。
格そのものが違う。
そもそも小金井が強くなる理由は生き残るためなどではなく、紅麗のそばにいたいが為の強さだった。
紅麗のそばで紅麗の為に戦って、紅麗の為に生きて、紅麗の為に訓練して。
小金井の行動と思考の核は常に紅麗が中心となっている。
(少しでも紅麗の役に立てればと思ったんだけどなぁ………)
常に感情を押し殺し、仮面を被り続ける紅麗の本心など誰にもわからなかった。
怒りも、悲しみも、憎しみも、喜びも、怒りも、何一つさらけ出すことはない。
だから一度も見たことはなかった、彼の
「笑顔って………」
「え?何か言ったか?」
「んにゃ、なんにも」
ババヌキを始めた烈火たちに呼ばれ、小金井も烈火たちに寄っていった。
(まぁ、近いうちには必ず見てみせるけどね)
密かな決意と誓いを胸に少年は未だその気持ちがもう敬慕などではないことに気づくことはなかった。
(愛故の依存か、依存故の愛か)