繋がれた恋






「こんばんは」

月のよく映える夜。
明かりがなくとも道が歩けるほど、闇のない夜だった。

返事を返さないアルヴィスを気にすることなく、歩み寄っていく。

「やっぱり青より白のほうが君には似合うよ」


背を向けていたアルヴィスを眺めながら、ファントムはぽつりと呟いた。

何を思ったのか、アルヴィスの格好は白いシャツに白いズボン。そして裸足。
今、2人がいる教会はレスターヴァ城からだいぶ距離があった。
散歩ついで来るような場所ではない。

アルヴィスはファントムにとくに驚きもせず、ちらりと見て大きな十字架に視線を戻した。

「お祈り?それとも懺悔かな」

「懺悔…」

アルヴィスは聞き逃してしまいそうなほど、小さな声でぽつりと言った。

自分で聞いておきながら、意外だったのかファントムは軽く目を見開いてすぐに微笑んだ。


「君の懺悔なんて、神様は贅沢だ」

子供のように無邪気な様は、彼が殺戮の王であることを疑わせてしまう。



「おれは重罪を犯した」

物語の一説を読み上げるように静かに言葉をはき出す。
それは自身の感情なのか、ある種の禁忌なのか。

「僕以上の罪を?」

それは知らなかったと、可笑しそうに聞き返してくる。
けっして馬鹿にしているわけではない。ただ、子供がじゃれついてくるのと同じなのだ。


アルヴィスはそっと胸に手を当て、深い瞳をファントムに向けた。




「おまえと共有したこと」




罪だといったくせに、はっきりと言った。
その声色に自責の念が含まれているとは思えない。

「僕と共有って…何を」

「時間と痛み」

アルヴィスの鋭い瞳がファントムを捉える。
睨まれているわけではないのに、ファントムは瞳を逸らした。

「それって…、結局は僕が罪人ってことだよね」

呆れたとため息をつく。

「そはれおれに対してか?」

「ううん、自分に対して」

困った言いながらも口は笑っている。
一人でうーんと唸っては、顎に手を当てて思案を示す。

その間、アルヴィスも特に何かすることもなく十字架を見上げている。

「でもさぁ、それって素敵なことだよね?」

少しの沈黙が終わり、再び会話が始まった。

「君が抱える罪は僕が与えたものであって、共有した時間はお互いのゾンビタトゥってことだよね」

「…あぁ」

「ってことは、僕らは僕らにしか感じることのできない痛みを共有した。ほかの誰も立ち入れない感覚を分かち合えるのは、君にとって僕だけ。そして、世界からしても僕らだけ」


そこまで一息に言い切ると、満足そうに笑った。

「やっぱり何度考えても素敵なことだ」

会心の笑みを浮かべ、アルヴィスを後ろから抱きしめる。
柔らかな包容が伝える温度は暖かなものではなかった。
限りなく死に近い冷たさ。

アルヴィスは身震いするとファントムの腕から抜け出す。

残念そうに非難の声を上げるファントムに、流石のアルヴィスも呆れ出口に向かって歩き出した。

「あれ、帰っちゃうの?」

「付き合いきれない」


振り返ることもなく出口へと足を進める。

「ねぇ、アルヴィス君」

扉にてをかけたところでファントムが呼び止めた。




「僕のこと好きだよね」

「それはたぶん、…勘違いだ」




納得したのかしてないのかファントムは笑顔のままアルヴィスを見送った。












(罪で繋がれた恋なんて)

(やっぱり素敵だよ!)

















人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -