CC/ZC未満/捏造
その圧倒な存在は、雄大でいてひどく穏やかな生を見せつける。
共に生きることのかなわないそれを始めて知ったときは、純粋に感動した。
気高く、誇り高く、たゆたう彼らに言葉はいらないのだろう。
海の賢者であり、王でさえある彼らの瞳に自分が映ったときは、自分でも知らない自分を垣間見た気がした。
それと同時に、自分は彼らの瞳に映るに値するほど穢れのない存在なのだろうかと思った。
ちっぽけな自分の短い時が、この一瞬だけ消えてしまったのではないだろうか。
そう思うほど、彼らの存在惹かれていく。
そして、彼らは光と闇のせめぎ合う中をゆっくりと進んでいった。
そこには、恐れも迷いもない。
ただ静かに前へと。
今、思えばソルジャーを目指したきっかけは、それだったかもしれない。
幼い頃の憧れに近づきたくて。
彼らの瞳に映った自分が忘れられなくて。
「ザックス!聞いているのか」
突然、怒鳴り声で名前を呼ばれ、意識が引き戻される。
振り返れば、ソルジャーになる前にも、なった後にもよくお世話になっているアンジールがいた。
「え、あ…聞いてなかった」
「まったく、お前はソルジャーになっても注意力散漫は治らなかったか…」
さりげなく嫌みを言われたが、聞き流す。
「えっと、で、なんだっけ?」
あからさまにため息をつかれた。
「だから、新人でまだこっちに着いていない奴がいるんだ。迷っているかもしれないからザックスも探しに行ってきてくれ」
そういえば、今日は新人たちの入社式だった。
どうりで、朝から騒がしいわけだ。
「ザックス、返事は?」
「おっと、了解です!」
新しい嫌みを言われる前に、勢いよく走り出す。
出口まで行くのが面倒くさくて、突き当たりにあった窓から飛び降りる。
が、自分は馬鹿だった。
勢いよく飛びすぎて、そのまま数メートル先の新緑エリアに落ちた。
したたか打ち付けた腰を押さえながら立ち上がる。
「いってぇ………」
新人を探しに行こうと足を踏み出そうとしたとき、水音が聞こえた。
魚よりも大きな波紋の音。
「誰か泳いでんのか?」
ふっと、興味がわいた。
気にって音の方向へ進んでみる。
日陰に覆われた小さな森の中を、ガサガサとかき分けてると枝に何かが引っかかっていた。
よく見ると、それは新人たちが着ていた軍服の上下と中に着ていただろうシャツだった。
すぐ横に綺麗な水場があった。
「泳いでんのって、まさか迷子の新人君?」
確かめようとした瞬間、水が大きく跳ねた。
緩やかな弧を描くように光に輝く金髪が水を振りまきながら起き上がってきた。
空を映した瞳がゆっくりと開かれる。
背筋の伸びた、しなやかな体が水を切り裂くように姿を表す。
そして少年の瞳がザックスを映した。
その色の深さに、体が沸き立つ。
それは、喜びなのか恐れなのか。
「ソルジャー?」
少年が細い首を傾げて聞いた。
「うん…ザックス。ザックス・フェア。覚えて」
自分を少年の中に入れてほしかった。
誰より深いところへ。
「ザックス?」
「覚えてくれた?」
「多分忘れない」
期待していたよりも、ずっと嬉しい言葉が返ってきた。
水から出てくる少年に、服を渡す。
「ありがとう」
黙々と服を身につけていく少年の姿は、お世辞にも似合わない。
「なぁ、おまえは?」
「クラウド。クラウド・ストライフだよ、ザックス」
少年が、クラウドが自分の名前を呼んだ。
それだけで、心が温かくなっていく気がした。
「…クラウド」
「ん?」
振り返ったクラウドの瞳に映る自分は、あの時見た自分と何も変わっていなかった。
ただ一つ、あの時と違うのは、この胸が苦しいほど高鳴っていること。
(初恋なんて言葉、忘れるぐらい恋してた)