CC/ZC/捏造
自分の勘の良さを褒め称えてあげたい。
英雄様のサポートと言う名目のお仕事もとい、生け贄から逃げて飛び込んだ部屋には先客がいた。
普段物置として使われている部屋は予想通り淀んでいて、窓もないため光も入ってこない。
電気もついていなかったので、一般人からすれば部屋の中を確認するのは不可能な状態。
それでもソルジャーであるザックスには関係ないことで、視界は至って良好だった。
とりあえず腰を下ろそうと、扉を閉め部屋に足を踏み入れる。
閉められる扉の隙間から照らされる通路の光に反射して、一瞬だけ視界の隅でにちらりと何かが光った。
目を細めれば、骨組みしかない棚の向こう側に誰かが座り込んでいるのがはっきりと見える。
気になって近寄っていけば、相手もびくっと、反応して、さらに身を縮ませた。
完全に警戒されている。
「んな、びびんなって。俺も隠れに来ただけだから」
そう声をかければ相手は迷うそぶりをしてから、顔だけこちらに向けた。
光の象徴するような金糸に、どこまでも透き通った青い瞳。
その顔にザックスは息をすることさえ忘れた。
まだ少年の域から抜け出せていない少年が、とても純粋な生き物に見えたから。
ザックスが見えていない少年は、ザックスが黙り込んだことに気まずくなったのか目を伏せてしまった。
ザックスは自分から反らされた瞳を残念に思いながら、少年の隣に腰を下ろした。
「はじめまして」
ありきたりな挨拶をすれば、同じ言葉が帰ってくる。
どこかぎこちない。
あまり他人と関わらないタイプなのだろうか。それとも人見知りなのか。
「こんな所でなにしてんの?」
「…あんたは?」
「俺はお仕事から逃走中。まぁ、サボリだな」
ふぅんと短い返事が返ってくる。
ぶっきらぼうに聞こえるが、ちゃんと返事を返してくれるのだから悪い奴ではないのだろう。
「…落ち着くんだ」
「ここが?」
「あぁ」
薄暗いどころか、人も寄り付かないこの真っ暗な物置が。
「寂しくないのか、独りで」
「人付き合い苦手だから…」
だから、独りのほうが楽なのだと。
「入社何年目?」
「まだ半年」
ザックスが尋ねるかたちで話が進んでいく。
ちゃんと待ってやれば、答えを返してくれる。
きっと口下手なだけなのだろう。
「神羅に入ったのって、やっぱ英雄様に憧れてか?」
「違う」
意外すぎる答えだった。
大概の奴はセフィロスに憧れてか入社してくる。そして一年もしないうちに挫折して去っていく。
「じゃ何で入ったんだよ。セフィロスが理由じゃないなんて、すっげー意外!」
「別に憧れてかないわけじゃないけど、もっと憧れてる人がいるから」
またもや意外な言葉に、ザックスも興奮状態に入る。
そんなザックスに圧倒されながらも、少年はおそらくザックスに対して破壊威力の大きすぎる名前を言った。
「ザックス」
「へっ…?」
突然に言われた名前に頭が真っ白になった。
一瞬自分は名前を教えただろうかと考えたが、この短い時間に名前を教えた覚えはない。
「い…ま、ザックスって言った?」
「うん」
理解できると、こんどは顔中に血流が集中してくる。
気恥ずかしいというか、照れくさいというか。
「あー…セフィロスよりも?」
「うん。セフィロスさんよりもずっと」
初めて少年が躊躇いなく話すのを聞いたというほど、はっきりとした口調で言った。
これだけは曲げられないのだと言うように。
とっさに理由を聞こうと口を開くが、聞けば自分が憤死しそうな気がしてそのまま口を閉じた。
そして、タイミングを計ったように聞き慣れた足跡が物凄いスピードで近づいてくるが鼓膜に響いてきた。
このままでは、ここにいるのがバレてしまう。
そうなれば、きっと隣の少年に迷惑がかかるだろう。
もう少し少年と話していたかったが、仕方ないと腰を上げた。
「じゃぁ、俺はそろそろ行くな」
「…うん」
声色がどこか淋しそうで、それが何だか嬉しい気がした。
名残惜しくも近づいてくるアンジールには逆らえず、入り口へと歩き出す。
荷物を避けながら入り口に向かう途中、ザックスは大事なことを思い出して再び少年に振り返った。
「なぁ!お前名前は?」
広くもない部屋で少年に向かって叫べば、少年はくすりと笑って、綺麗な声で「クラウド。あんたは?」と返してくれた。
ソルジャーでなければ、見ることの出来なかった笑顔で。
ザックス完全な放心状態から一瞬で我に返り、そのまま扉を開いた。
開けたときと同じように光が入ってくる。
そして暗闇の中でザックスを照らし、クラウドは目を見開いた。
「ザックス・フェア。次はクラウドから声かけて。待ってるから」
ザックスは最上の笑顔のまま、扉を閉めた。
通路に出れば、予想通りアンジールに出くわした。
「ザックス!お前はまた任務を放り出して…って、何かいいことがあったのか」
アンジールさえめったに見ないほどのザックスの笑顔は、アンジールの目を丸くさせた。
そして、なかなか話しかけてこないクラウドにしびれを切らしてザックスからクラウドに突撃訪問をしたのは、それから数日後のこと。
(時間と共に)
(慕情は愛情に変わるもの)