悪戯って何味?
AC/ZC/Z生存ver




ようやく肌寒くなってきた朝、胃を押しやられる感覚と鼻を刺激する甘い香りに目を覚ました。
半ば強制的に覚まされた目を開くと、マリンとデンゼルがじっと覗き込んでいる。

「……おはよう」

「お菓子!」



おはようは返してもらえなかった。











部屋を物色し始めた2人を追い出して着替える。

習慣となったカレンダーの確認をすると、紫とオレンジで、でかでかと殴り書きされている『HALLOWEEN!』の字が嫌でも目に入る。

つまりお菓子をよこせと言うことなのだろう。

字を囲んでいるギザギザの枠は31日をはみ出して、周りの3日分くらいを巻き込んでいる。

しかし残念ながら、仕事で帰ってきたのは昨日。
ここしばらくカレンダーは見ていなかった。勿論、お菓子なんてない。



「…買いに行くか…」




いろいろと諦めて下に降りると、ほのかに香りが部屋を包み込んでいる。

「おっ、やっと起きたか。休みにしちゃぁ中々早かったな」

並々と注がれたコーヒーカップを片手に持ったザックスがキッチンから出てきた。

「起こされたんだ」

カップを受け取ると一口喉に流し込む。
じんわりと温かさが体中に広がっていく。

クラウドがゆっくりとコーヒーを飲んでいる間も、ザックスはせわしなくキッチンを動き回っている。
沢山の卵と小麦粉と牛乳。鮮やかなドライフルーツやコーンスターチにアーモンドパウダー。
普段見ない材料まで並んでいた。
楽しそうにボウルを泡立てているザックスが何だか微笑ましい。

「今日は何屋なんだ?」

「美味しいお菓子屋さんだ!」

あぁ、なるほど。
マリン達はティファの店が終わってから、また来るのだろう。

それまでに自分も何か買ってきておかなければならない。

「ちょっと出掛けてくる」

空になったカップを机に置いておく。
今キッチンに持って行っても、きっと邪魔だろう。
玄関に掛けてある冬物ねコートを羽織ると、扉を開けた。

「早めに帰ってこいよ」

「うん。いってきます」

ザックスがキッチンから、らひらと手を振っている。

「いってらっしゃい」




想像通り、外は寒かった。
フェンリルに乗っていこうかとも思ったが、街中で乗り回すのは流石に迷惑だろうと思い、そのまま歩き出す。








街はクリスマスに劣らぬイルミネーションで彩られ、子供たちの声で賑わいでいた。

店の窓にはカボチャのシールが貼られ、入り口やショーウインドーにはお化けや魔女が飾られている。
どうやら街全体がハロウィンを催しているようだ。

『Welcome Ghost』の看板があるお店や家には子供が列を作り、代わる代わるに「Trick or Treat」と言ってお菓子を貰っている。

嬉しそうに走っていく子供達を横目に、行き着けの店にたどり着く。

手作りが売りのその店でもハロウィンが行われていた。

「あっ、ストライフさん!」

何年も店番をしていて、すっかり顔馴染みになった少女がクラウドに気づく。

「今日はフェアさんは一緒じゃないんですか?」

「いつも一緒ってわけじゃないよ」

「いつも一緒ですよ」

いたずらっ子のように笑う顔は年相応で素直に可愛らしいと思う。

「それで、今日は何にしますか?」

ぐるっと、さほど広くない店内を見回すが種類が多すぎてよくわからない。

「ハロウィン用を2つ、適当に見繕ってくれ。出来れば、子供が喜びそうなの」

「はい」

大きくカボチャがプリントされた袋に飴やチョコを手際よく詰めていく。

「こんな感じで、どうでしょう」

見せてもらった袋には程良い感じに膨らんでいて、彩りもいい。
何より色んな種類が入っている。

「ありがとう、これなら2人とも喜ぶ」

最後に可愛いリボンで結んでもらう。

待っている間、店内を回っていると大人向けにデザインんされた箱が目に入る。
中身はビターチョコとクッキー。

「悪いけど、これも」

クラウドは中身が増えた紙袋を持って、帰路を歩き出した。








「ただいま」

「おかえり」

もう作るものは作ったのか、ザックスはソファでくつろいでいる。

クラウドは直接自室に向かい、紙袋から一つ取り出すと引き出しにしまった。
机に置かれた部屋には不釣り合いの袋が何だか可笑しい。

コートを脱ぐと、下から話し声が聞こえ、暫くすると階段をどたどたと駆け上がってくる。

「Trick or Treat!」

魔女と狼男のマリンとデンゼルが部屋に勢いよく入ってきた。
予想通りの行動に笑ってしまう。

「ちゃんとあるよ」

机に置いた紙袋から、袋を2つ取り出すと2人に渡した。

「わぁ!可愛い」

「ありがとう、クラウド」

いっぱいいっぱいに顔を綻ばせ袋を抱きしめると、上がってきたときと同じ様に階段を駆け降りていく。





2人の後をついてクラウドも降りると、リビングにはすでに料理が所狭しと並んでいた。

「今晩は」

意外なことにティファも猫耳のフードがついたパーカーを着ていた。

「…ティファ」

「ん?」

「お菓子は、もうないからな」

「ぷっ」

至極真面目に言ったクラウドにティファは吹き出した。
私はいらないわよ。と腹を押さえて肩を震わせている。

「てっきり欲しいのかと」

「2人につき合ってるだけよ。それにお菓子ならザックスので間に合ってるわ」

確かに。
テーブルには料理だけでなく、プリンやタルトも並んでいる。
しかもご丁寧にカボチャ型だったり、チョコソースでお化けが描かれていた。
ここまでくると、やりすぎなような気がする。
ティファは呆れたような顔で見ている。


「ほらほら、座れ!食うぞ!」

「はぁい!」

「クラウドも早く座れ」

「あぁ」


例年以上に賑やかな夕食が始まった。








思いのほか楽しい夕食は気づけば食後のデザートに変わり、6時だった時計は10時を指そうとしていた。

「そろそろ帰らないと。今日は楽しかったわ。ごちそうさま」

うとうとし始めたマリンとデンゼルに、送っていこうとザックスがコートに手をかけると玄関がどんどんと激しく叩かれた。
「誰だよ、こんな時間に」

「あぁ、たぶん」



「マリーン!!!」

鍵が開くや否か、バレッドが扉を壊す勢いで入ってきた。

「大声出さないの。近所迷惑」

「すまん…。それよりマリンだマリン。お前マリンになんかしてねぇだろうな!!」

きっとザックスを睨んでは、敵対心を燃やしている。
ザックスに至っては、たいして相手にするつもりもないのか、ティファと喋っていた。

「迎えが来たみたいだから、見送りはいいわ。あとは2人で楽しんで」

いつの時代だって女性の感は鋭い。
クラウドたちも別に隠しているわけではないが、おおっぴらにした覚えもない。

「じゃあ、良い夜を」

「あぁ、おやすみ」

「次はクリスマスな」

バレッドが来たせいで嵐のようにうるさかった家が静かになった。

「さてと、ちゃっちゃと後片付けしちまうか」

「そうだな」








後片付けが終わった後、シャワーは浴びても、クラウドは眠る気はなかった。
引き出しから出した小箱をこっそりカーディガンのポケットに入れてザックスの部屋に移動した。

丁度シャワーからあがったのか、ザックスはまだ上半身に何も身につけておらず、頭にタオルを被っている。

「今いい?」

「むしろ来なかったら、行こうと思ってた」

いきなりがっつかれなくなっただけ、大人になったのだなぁとクラウドはしみじみに思った。

「この状況でよそ見か?」

大人なになったのは、ほんの数分だけだったようが。
声がすると同時に、ベッドに押し倒された。
柔らかい布がクラウドを受け止めてくれる。


「やっぱ、あんたは成長してないかも」

「成長したさ、この状態でおあずけが出来るぐらいには」

それもそうだ。
それに押し倒されても慌てなくなっただけ、自分も成長したのかもしれない。

「クラウド」

「うん?」






「Trick or Treat!」





やっぱりザックスは成長なんてしないのかもしれない。
なんだか嬉しくなってくる。



「ザックス」

目の前に突き出されたのは、シンプルな箱。
中からは控えめな甘いに匂いがした。

それはクラウドが、マリン達のお菓子と一緒に買ったビターチョコとクッキーだ。

「えーと…」

「お菓子あげるんだから、いたずらは無しだな」

悔しそうなザックスとは対照的にクラウドは楽しそうに笑っている。


「なぁ、ザックス」

クラウドは下からザックスの頬を撫でると、挑戦的な瞳でザックスを覗き込んだ。
その瞳に微かな熱が篭もっているのを、ザックスが見逃すはずがない。

しかし、それより早くクラウドは頬から首に回した手を後ろ組み、ザックスを引き寄せた。

「Trick or Treat」


そのままぺろりとザックスの耳朶をかじる。

ぞくりとどこかの器官が震えたのをザックスは感じた。

「くれないのか?」

ザックスと顔を合わすように離れると、ぺろりと自分の唇を舐めた。

恋人の艶やかな姿を見て何もしない男がいるだろうか。

ザックスは揺らめく瞳をいっそう濃くすると、クラウドの濡れた唇に噛みつくようなキスをした。

「お菓子はないから、とりあえず俺ってことで」








(お菓子に見合う悪戯を)

(甘く溶かして見せてよ)





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