Friend dog
CC/Z+C




不思議な出来事というのは、いつだって唐突にやって来る。



朝だった。
アラームで叩き起こされることもなく、暖かな日差しで目を覚ます。
こんがりと綺麗に焼けたトーストと、ミルクたっぷりの甘いココア。少し不格好に切りそろえられたサラダを口いっぱいに頬張る。静かだけど優しい時間。
とてもいい休日の始まり方だ。

今日は日頃買いに行けなかった日用品を買いに行くと決めていた。
ゆっくりと朝食を食べ終え、お皿を流しに置いて水につけておく。
軽く上着を羽織り、玄関の扉を開けた。


「………」

扉の真ん前には犬が座り込んでいた。
クラウドを見つめるように顔を上げ、瞳がこちらを向いている。

犬の深く濃い瞳は揺らぐように細微な変化を繰り返していた。
ちらちらと青い炎のように濃淡が定まっていないのだ。大きな体格を包む黒い毛は汚れていない。すらりとした四肢もしなやかなに伸びた背筋にクラウドは素直に綺麗な犬だと思った。

どうしてこんな所に犬がいるのだろうと思いつつ、犬の脇をすり抜け階段に向かおうとしたクラウドの足が止まる。

犬がクラウドのパーカーの裾を噛んでいた。
瞳は変わらずクラウドに向けられている。

クラウドがしゃがみ込んで犬の首を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細め喉を鳴らしている。

クラウドは何となく最近出来た友人に似ていると思った。

たしか彼のあだ名は『子犬』。

実際は子犬なんて可愛らしいサイズではないけれど。

「おまえ、どこの子?」

クラウドが首を傾げると、犬も同じ様に首を傾げた。

そして鼻を鳴らしながら、クラウドの腹に頭を押しつける。

「首輪とかないけど、野良?…じゃないよな」

野良にしては綺麗すぎる。
かといって、飼い犬にも見えない。

「おまえ、おれの友達に似てるよ。目とか、毛の色とか。ザックスって言うんだけど…」





突然犬が体を起こし「わん!」と大きく鳴いた。
尻尾を激しく振ってその場を何度も左右に行ったり来たりしている。

クラウドと目が合う度に「わふっ!」と鳴く。

そわそわしたままの犬は、また近づいてきてクラウドの手のひらに首を擦り付けてきた。

手にあたる硬い感触に、先程は気づかなかったドッグタグに気づく。

ドッグタグがあるということは、やはり飼い犬なのだろうか。
ドッグタグを犬の首から外し、書かれている文字を見た瞬間クラウドは固まった。
それはもう素晴らしい硬直具合で。
そして犬の輝きと期待に満ち溢れた瞳に見つめられて。








―Zack―…








「ザックス?」

「わん!」

犬の瞳が潤んでいるように見えるのは気のせいだろうか。
よほど嬉しいのか尻尾が千切れそうなほど勢い良く振られている。

そんな犬とは対照的にクラウドは頭を抱え込んだ。



「………ザックス、おすわり」

「わん」

ザックスは残像すら残る動きで、零コンマの速さでお座りをした。まさに名犬顔負けで。

しかも、その顔はどこら誇らしげである。

「………え、えぇー…」


神羅に来てから、今日以上に現状理解に苦しんだ日があっただろうか。きっとなかったはずだ。

取りあえず、犬。もといザックスの対処法を考えなければならない。

「ん?」

いつの間にかお座りを止めたザックスがクラウドの裾をくいくいと引っ張っている。

そして階段に向かって数歩歩いてクラウドを振り返っては、戻ってきて動かないクラウドの裾を引っ張った。

どうやらついてこいと言うことらしい。

「はぁ、わかったよ。今日は、あんたに付き合ってあげるよ」

休みを満喫するのを諦め、クラウドは先を歩くザックスの後ろをついて行った。








(子犬はやっぱり犬だった)





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