TetraScope制作フリーゲーム「私のリアルは充実しすぎている」
週終わりの休日。
今日はお昼から穂積さんが家に遊びに来ていた。
といっても一緒に何をするわけでもなく、いつも通りお互いに別のことをしていて……。
私は授業の予習。そしてどうやら穂積さんは私の後ろにあるベッドの上で寝ながら携帯をいじっているらしい。
「……」
夏休み中のあの日、穂積さんと初めてキスをしてからというもの私達の距離は少しずつ近づいてきている気がする。
だって、ね。
「穂積さん」
「んー?」
「私予習してるんですけど」
「それが?」
それがって……。
(顔赤いくせに後ろから抱き付いてこないでよ!!)
そう、穂積さんは最近こんなことをよくしてくる。
前は甘い空気なんて耐えられないみたいなこと言ってたくせに、その甘い空気を自分から作り出すのだ。
「なに、宿題?」
「いやだから予習」
「ふーん。あぁ、それもキャラ作りってやつか」
そう不機嫌そうに呟きながらも、穂積さんはより強く私を抱き締めてくる。さらに距離がぐっと近づいた。
「穂積さん、携帯いじってたんじゃないの?」
「お前が勉強してたからじゃん」
「してたって、まだしてるんですけど」
「……予習とか、よくない?」
「穂積さんはね」
そう言って再び教科書に目を落とすと、後ろから穂積さんが舌打ちする音が聞こえた。
起き上がってベットに腰掛けでもしているのか、ベッドが軋む音が聞こえてくる。
と思いきや、後ろから手がのびてきシャーペンを持っている私の手を掴んだ。そしてそのまま指を絡ませてくる。
「ほ、穂積さん?」
「何だよ」
「いや……顔、すごく赤いですよ」
「っお前もな!」
「……」
「……」
お互いに赤い顔をしながら見つめ合っていると、穂積さんのほうが先に目を逸らした。
「シャーペン離せよ」
「だ、だから予習してるんだってば」
私が負けじとシャーペンを握り締めると、穂積さんが空いていた片手を私の背中辺りにのばしたようだった。
そのままスーっと上から下へと指を這わせてくる。
「ぅおっ!?な、何!!」
「べっつに?」
そこまで厚くない、むしろ薄いであろう素材でできたこの部屋着は指の感触を伝えやすい。
こんなことになるなら、隼の言う通り他の服を着ていればよかった……。
「し、しくじった……!」
「いや何がだよ」
しまった、またしても心の声が漏れてしまったようだ。
学校ではこんなことないのに、どうも穂積さんの前だと気が抜けてしまって仕方ない。
そんなことをふと考えていると、またしても後ろから穂積さんが舌打ちする音が聞こえた。
穂積さんは一体何に苛ついているのか。
さすがに文句を言おうとすると、その前に片手を掴まれる。
そして思い切り後ろに引かれた。
後ろでは穂積さんが胡座をかいていたわけで、結果的に私は穂積さんの足の間に座る形となる。
「ちょ、ちょ、穂積さん!?」
「てかお前さ、よく仮にも彼氏である俺が部屋にいるのにこんな服着れるよな」
「……は?だって、穂積さんだし」
「俺だから何なんだよ」
「いや、学校の人でもないんだから着飾る必要ないでしょ」
「……(これは俺、喜んでいいのか)」
羞恥心を無視できず抜け出そうともがくと、それに気付いた穂積さんが両手を私の前に持ってくる。
そのまま前で手を組まれてしまい、簡単には抜け出せなくなってしまった。
「ふーん。……じゃあさ、襲われるかもっていう心配はないわけ?」
「……はぁ?」
「え、や、なにその顔」
あまりに思いがけない穂積さんの言葉に口がぽっかりと開く。
一体この人は何を言っているのか。
襲われるって、私が穂積さんに?穂積さんが、私を?
「ははっ……ないわ!!」
「何でそんな自信満々なんだよ!」
私がそう言い切ると、見るからに不満げな穂積さんが上から顔を覗き込んできた。
「何でって、なんとなくよ!てか穂積さんがそんなこと出来るわけないでしょう?」
「て、てめ……っ」
照れているのか怒っているのか、穂積さんは既に耳まで真っ赤になっている。
「何よその目は!出来るならやってみなさいよ!」
「っ!!……言ったな?やっても文句言うなよお前。てかぜってー殴るなよ?」
「は?私がそんなこ……っ」
言い返そうとした最中に手を掴まれ、気付いたときにはもう背中がカーペットの上に組み敷かれていた。
はっとなり穂積さんの方を向くと、そこには思ったよりもずっと真面目な顔。
思わず息を飲むと、少し焦るような目をした穂積さんの顔が近付いてくる。
キスされる。
そう思い反射的に目を閉じるが、いつまで経ってもあの不思議な柔らかい感触は落ちてこない。
余計になんだか緊張して目をぎゅっとつぶった。
「ほ、穂積さ、」
「っんな顔してんじゃねぇよ!」
「え?……んっ」
「……っ」
小さくリップ音を残して穂積さんの唇は離れていく。
キスは、唇ではく額に。
「……ばーか」
「はっ!?」
そう悪口を言い残して私の上から退く穂積さん。
言い返そうと私も上半身だけ上げると、穂積さんの顔が近付いてきてまた小さなキスが額に落ちてくる。
「っ!?」
そして私が固まっている間に、穂積さんは少し焦り気味に部屋から出て行った。
〜部屋から出て行った後の穂積さん〜
「うっ、おぉ……」
廊下の壁に背中を預けて座り込む。
目を閉じればさっきのシーンが鮮明に蘇ってきて、そのたびに頭を抱え込みたくなった。
「俺、何してんだよ……」
「いやほんと、こんな所で何してんの」
「!?」
いきなり聞こえてきた声に顔を上げれば、怪訝な目をしたあいつの弟と目が合う。
「べ、別に?」
「……お前、まさかやったのか」
「っ!!」
「え、まじでやったのか!?嘘だろ!?」
「や、やってねぇよ!!」
この後こいつに色々と問い詰められたことはもちろん。
そして暫くあいつとまともに顔を会わせられなかったことも、言うまでもないだろう。
END
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