#HCOWDC2 Day3
2022/03/09 21:48

「これ美味しい!」
「ねむ、一口ちょうだい! 交換、交換!」
 三月も頭、まだ上着が手放せないどころかマフラーや厚手のコート姿もちらほらと見られる寒空の下、冷たいドリンクを片手にはしゃぐ少女たちはこの田舎で存分に目を惹いていた。寒さなど諸共しないのか、それでも薄いプラスチック製の器を冷たそうに持っている指先が少し赤くなっている。彼女たちは友人という贔屓目を抜きにしても、華やかで可愛らしい人だと業は暖がわりのホットコーヒーを握りしめる。普段からしょっちゅうメッセージのやりとりをする二人が久々に、春休みを前に再会できたのだ。いつもよりずっと楽しそうなねむの姿を眺めるだけで、業は自分まで幸せになれるようだった。
「こっからまた買い物なんかなぁ」
「暫くはここでお喋りタイムじゃないかな」
 そっかあ、と机に伏す照也はといえば、楽しげなねむとは対照的に随分退屈そうである。特に興味もないだろうアパレルショップに、雑貨屋――それも女性向けのブランドばかりである――と、彼の興味を引くものがまるでなかったというのも彼の退屈に拍車をかけているのだろう。業はそんなもう一人の友人を眺めると、小さくくすりと微笑んだ。
「――どないしたん」
「ふふ、だって照也くん、あれだけ着いていく! って言ってたのに」
 その少し無邪気な笑顔に、照也は思わずぴんと姿勢を伸ばした。そもそも、照也がこの女子会に参加を決めたのは他でもない――業が参加するからである。その事実を、照也はまだ業に知られる訳にはいかなかった。照れ臭さもある、それ以上に自分でもこの胸の騒めきの正体が一体なんなのか、わからないからだ。
「あ、う、うん…… せ、せや、ったな……」
 つい、気まずさを誤魔化すために甘いキャラメルラテを啜る照也に、業はまた楽しそうに笑う。
「――そうだ、僕らもショッピングしようよ」
 業は少しご機嫌だった。業の誘いに、まだ甘い擬態だったのか照也の尻尾が嬉しそうに膨れ上がる。その厚みにどん、と椅子から弾かれた体に、慌ててぱたぱたと払うように再び擬態する照也はもうすっかりいつもの調子で、何かほしいのあるん、とわくわくした目を業に向けた。
「なになに、男子は行き先決まった?」
 美々子、次ワンピース探そうよ。ねむがフロアマップを眺めながら次の行き先を決める中、業もまた同じように地図を覗き込んだ。照也には読み方もわからない店の名前がずらりと並ぶその地図はもはや彼の視界に入ることはない。真剣な顔で店を探す業の横顔を、どこに行くのだろうとそわそわして眺めているだけだ。相変わらずなのね、と美々子は変わらない友人たちに少し安堵する。
「僕、春用のコートが欲しいな」
「あ、私も欲しい!」
 同時に顔を上げたねむと業に、美々子はとうとう声を上げて笑った。



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