雨の日に猫を拾った。白い肌に貼り着く真っ黒の髪の毛が妙にエロい猫だった。


「入っていくか?」
「…ありがとう、とうまくん」


自慢のリーゼント、今朝のお天気お姉さんの予報通り夕方から降り出した雨、じっとりと暑い梅雨のある日。

下着の透けたセーラー服を隠すように駄菓子屋の軒下に蹲っていた黒猫、名字名前を拾った日。


***



「"とうま"って名字だったんだね」
「そーよ。勇気の勇でイサミっての」
「てっきり下の名前だと思ってた。芸能人にも"とうま"って人いるから」
「イントネーションが完璧に名前のそれだったよな」
「気づいてたなら言ってよ。もう1ヶ月も"とうま"くんって呼んでたよ」


校舎の窓から身を乗り出した名字が濡れないように、差していた傘を少しだけ傾けてやる。「とうまじゃなくて、トーマくん」イントネーションを名前から名字に直して、納得したように、満足そうに笑う名字は、うん。くっそ可愛いなコノヤロウ


「あ、引き止めちゃってごめん。濡れるよ」
「いーよ別に。名字はまだ帰んねーの?」
「うん。事務室に行ってから…」


あの日、ずぶ濡れの名字を拾った日。運良く持っていた使用前のジャージを着させて、それなりに遠かった名字の家まで送ってやったあの日。3年間顔と名字だけ知っていた名字の名前が『名前』だと知った。


「なんで事務室?」


次の日。紙袋を抱えて俺のクラスへやってきた名字は変なイントネーションで俺を呼びだし、「昨日はありがとう」と頭を下げた。紙袋の中身は嗅ぎ慣れねぇ花の匂いがするジャージと、無駄にカラフルで目が痛む駄菓子の詰め合わせ。
「普通ここは手作りクッキーじゃねぇの?」と揶揄ってやると、名字は「そんなに私の手作りクッキー食べたいの?」と厭らしく笑った。エロかった。


「あー…えっと」


それから1ヶ月、廊下ですれ違うと手を振り合う仲になった。暇なら話しかけたし、話しかけられた。あの日、肌に貼り付けていた黒い髪の毛は、ポニーテールだったりサイド結びだったりと形を変えて、6月のぬるい風に揺られて靡いていた。


「……傘、借りに行くの」


実は、真っ白のうなじに汗で産毛が貼り付いてんの、すっげぇエロくて好きだった。


「何おまえ、今日も傘忘れちゃったの」


実は、今垂れ下がっている髪の毛が、今朝はサイドに纏められていたのを知っていた。


「…お恥ずかしい……」


実は、雨の日は下着が透ける可能性を考慮して、髪を下ろしているのを知っていた。


「天気予報ちゃんと見なさいよ」


実は、お前が今日傘忘れてきたの、知っていた。

お前が放課後に、傘を貸してくれる事務室に行くことを知ってた。だから、事務室に行く途中に見えるここで、傘差して待ってた。なんて言ったら


「んなら、入ってく?」


お前はどういう反応すんのかなぁ、なんて。


「…いいの?」


こうやって、嬉しそうに笑ってくれたらいいなぁ。なんて、思ってたんだよ。


「お礼は手作りクッキーでいいぜ」
「…そんなに私の手作りクッキー食べたいの?」
「後さ、勇クンって呼んでくれてもいいぜ?」
「そんなに私に名前で呼んで欲しいの?」

それなら私の事は名前って呼んでくれてもいいよ


照れ臭そうに笑うそれが、OKのサインってことで。


「勇くんって、誘い方まで大人っぽいね」
「そんなことねぇよ」


ベタな駆け引き。イントネーションを指摘しなかったのは馬鹿らしい独占欲。エロいうなじもエロい下着も俺以外に見せねぇように、今日から髪の毛は下ろしていて貰うつもり。


「クッキー楽しみにしてて」


クッキーだって、もうずっと前から楽しみにしてたんだぜ。だから全然大人じゃねーのよ、俺。



「年相応の当真」ということで、軽率に夢主の下着を透けさせちゃいました。ラッキースケベから恋に落ちるのって最高に男子高校生だとはっさくは思います。大人なら相手が恥ずかしい思いしないようにイントネーションをすぐ直させるよ!と夢主の目を覚ましてやりたい


Thank you for the 1st anniversary



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