影浦隊の作戦室でお菓子とみかんを食べた。
こたつでぬくぬくしながら漫画を読んで昼寝をする。
目が覚めたら19時を過ぎていて、お母さん送られてきていた『ご飯はいるの?』のメッセージに『今から帰る。たべるよ』と返事をしたら、


「あ、絵馬くん」
「おはようございます。名字さん」


スマホをポイッと投げて起き上がると、寝る前までヒカリがいた場所に絵馬くんが座っていて、みかんをむいむい剥いていた。食べますか?と一粒差し出されたので遠慮なく頂く。甘くて美味しい。


「みんな寝てるからびっくりした」
「あー、ほんとだ、みんな落ちちゃったんだね」


左側に影浦先輩。右側にゾエ。ヒカリは?と聞くと絵馬くんが下を指さす。少し身を乗り出して覗いてみると絵馬くんのお腹に抱きついて眠るヒカリがいた。

まとわりついてる。座ってたらいつの間にか。私絵馬くんの定位置奪っちゃってた?コタツはヒカリの城だから、滅多に入らない。そうなんだ。うん。コタツ温かいね。みかんどうぞ。ありがとう。
まだ冷め切っていない頭で絵馬くんとお話をする。みかんを一粒貰って、もごもごと果肉を潰して遊んだ。


「名字さんってサイドエフェクト持ち?」
「あ、しってた?」
「いや、なんとなくそうなのかと思って聞いたんだけど。やっぱりそうなんだ」
「視覚数値化」
「なにそれ」


表情はあまり変わらないけど興味津々だというのがサイドエフェクトで伝わってくる。変わらないんじゃないか。変えないように頑張ってるのか。思春期だ、愛いのう。
絵馬くん可愛い。という気持ちを必死に隠して、サイドエフェクトの説明をすると、だから荒船さんなんだ。と納得したように頷いて、凄いね。と褒めてくれてちょっと驚いた。
ぜ、全然擦れてない!辻の方が何倍もクソガキだ!


「どうぞ」
「ありがとう」


みかんを一粒貰う。そういえばもうすぐトーマが帰ってくるってゾエが言ってたよ。知ってる。嬉しいね。別に、お節介だから疲れる…嫌いじゃないけど。うはは。笑わないでよ。
絵馬くんが剥いてくれたみかんが無くなったので、今度は私が剥いてあげる。私は白いところを取らないタイプだが絵馬くんはどうだろうか。そう思って聞くと、白いの取るのは気分だからあっても別にいい、ありがとう。と言ってくれた。素直で可愛い。


「帰ってくるってどこに行ってたんかね」
「知らないの?」
「みんな知ってるの?」
「場所は知らないけど、遠征ってことはB級以上なら知ってるよ」
「えんせー?」
「近界に行ってる」
「なんと」


太刀川隊と冬島隊と風間隊、玉狛第一はどうなんだろ、今回は行ってないのかな。玉狛第一?玉狛支部の部隊。へえー、絵馬くん物知りだね。名字さんが知らなすぎるだけでしょ。

みかんを一粒、絵馬くんの口の中に放り込む。絵馬くんは小さく会釈をして新しいみかんを剥き始めた。どんだけ食うんだ。多分私と一緒に食べるんだと思うけど。


「パーティーするんだって」
「うん、誘われた」
「行くの?」
「行かない。その日は父さんが帰ってくる日だから」
「お父さん忙しいんだ」


絵馬くんの家は父子家庭らしく、トーマが帰ってくる日とお父さんが出張から帰ってくる日が重なっているのでお疲れ様会には参加しないらしい。
なら最近家で一人なん?と聞いたら、最近はカゲさんの家に泊まってるから心配しないで。と言われた。カゲさん甘いから。と小さく笑っていたのを私は見逃さなかったぞ。後で影浦先輩に後で教えてやらねば。


「影浦隊仲良しだよね」
「そうなんじゃないの」
「絵馬くん影浦隊大好きなの伝わってくるし」
「やめてよ」


ぽぽぽ、と絵馬くんのほっぺたが赤く染る。まだ子供のぽってりとしたほっぺた。触りたい。触ってもいいだろうか、絵馬くんは今ヒカリに抱きつかれているから逃げられないし卑怯かな。そんなの気にする私じゃないだろ、逃げられないなら触れよ私!


「…もちもち」
「……名字さんも同じじゃん…」


身を乗り出して人差し指を絵馬くんのほっぺに突刺す。嫌そうな顔をしていたが、もちもちだということを伝えると私のほっぺたに指を突き刺して自分のと比べていた。
大して変わらないし。と零す口が尖っている。恐らく自分のほっぺの方が柔らかかったのだろう。拗ねる姿が可愛かったのでみかんを一粒口に放り込んであげた。


「うわ、これ酸っぱい」
「ほんと?」
「多分これもすっぱいよ」


絵馬くんが言う"多分酸っぱいみかん"を口に放り込んでみる。おぉ確かにすっぱい。なんで分かったの?と聞くと、毎日食べてたら分かるようになった。と返ってきて、毎日みかんを食べているのか!と変に感動してしまった。


「ヒカリがいつもくれる」


絵馬くんはもうみかんがいらなくなったのか、ヒカリの頭にみかんを積み重ねて遊びだしてしまった。もう少し酸っぱいのがどれか教えて欲しかったなあ。と思っていると、いっぱいあるから持って帰っていいよ。とコロコロとみかんを転がしてくれた。


「ありがとう、そろそろ帰るね」
「カゲさん起こそうか」
「いいよ起こさなくて、ぐっすり寝てるし」
「でももう外暗いよ」
「んー、なら辻と帰る」


辻が本部にいるかどうかは知らないけど、絵馬くんに余計な心配をかけたくなくて嘘をついた。けどどうやら、失敗したみたいだ。絵馬くんが表情を隠すことなくすごく嫌な顔をしている。地雷だったかな


「…仲良いの」
「幼なじみ、隣の家だよ」
「……二宮隊、仲良くしない方がいいよ」


平気で裏切るから。あの人達。


酷い言いようだ。多分、鳩原未来が人を撃てないから追い出された、という噂を信じているのだろう。そりゃそうか。色んな噂があるけれど師匠を悪く言われたくないもんね、二宮隊のせいにしたいよね。

裏切る、裏切るねえ。
裏切ったのは鳩原未来の方で。辻は泣いてたのに。いぬは泣くのを我慢して、二宮さんは倒れたのになぁ。


「それでも私の幼なじみだよ」
「、ごめん」
「今日ね、絵馬くんとお話出来て良かった」


ぐ、と堪えるように下を向いてしまった絵馬くんの頭を身を乗り出して、ぽん、と撫でる。
絵馬くんはまだ子供だ。大事な人に置いていかれてしまって、我慢しなければならなくて、大人にならなければならなかった、子供だ。


「絵馬くん無愛想な子だと思ってたけど、本当はよくお喋りしてくれる優しい子だった」
「…うん」
「知らなかったから、知れて嬉しかったよ」
「名字さんも、意外とマイペースなんだね」


すごい性格キツイ人だと思ってた。そう言われて無意識に口元がひくついてしまった。私の顔が派手だから、そう見られるのにはなれているけれど、そんなストレートに言ってくるかね、この子は。
そういうところも、まあ可愛い。


「きちんとお話しないと分からなかったね」
「……うん、そうだね」


ぽんぽん、絵馬くんの頭を緩く叩く。
きっと二宮隊は絵馬くんに、鳩原未来が裏切った事は言わないのだろう。
絵馬くんが悲しむから、絵馬くんの為に言わないのだろう。
無関係な私は何も言えない。そもそも興味無いし。てかそもそも何も知らないし。


「知らないことって、いっぱいあるねえ」


知りたくもないけどね。心の中で、言い訳みたいに呟いた。
絵馬くんは下を向いたままだ。ぽんぽん、と緩く頭を叩く。明日からも仲良くしてね。そう言うと、絵馬くん小さく頷いてくれた。


「悪く言ってごめんなさい」
「いいよ、私だってボロカス言ってるもん」
「仲悪いの」
「どうだろうね」
「…変なの」
「そうかな」


変でも何でも、幼なじみだよ。
へら、と笑ってみかんをあげる。因みにこのみかんは絵馬くんから貰ったみかんだ。師匠みたいに格好付けたかったのだが、ただのキャッチアンドリリースになってしまった。


「みかん、あげたら」
「辻に?」


返事はない。
もしかして、二宮隊に、って事かもしれない。
やっぱり絵馬くんは優しくて良い子だ。
ぽん、ともう一度緩く頭を叩いて、そうするね、と笑った。


歩み寄りみかん


マエ モドル ツギ

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