▼ 芥川
青チヨオク ADIEU と壁にかきすてゝ出でゆきし子のゆくゑしらずも
すがれたる薔薇(さうび)をまきておくるこそふさはしからむ恋の逮夜は
うなだれて白夜の市をあゆむ時聖金曜の鐘のなる時
かりそめの涙なれどもよりそひて泣けばぞ恋のごとくかなしき
黒船のとほき灯にさへ若人は涙落しぬ恋の如くに
憂しや恋ろまんちつくの少年は日ねもすひとり涙流すも
二日月君が小指の爪よりもほのかにさすはあはれなるかな
ときすてし絽の夏帯の水あさぎなまめくまゝに夏や往にけむ
しのびかに黒髪の子の泣く音きこゆる。初恋のありとも見えぬ薄ら明りに。
2014/11/30