-雑誌の表紙-

最近考えていました。
ポアロで眺めていたVOGUE誌、そしてPremière, Numéro…など、その他モード誌はたくさん見るのですが、ここ最近はドレスライクなものが見受けられます。
とてもエレガントで最高にクールです。

…こ、このドレスは哀ちゃんにはぴったりだと思うんだよね
どうせまたロリコンとか言われるからシェリーのお姿で考えているんだけど、絶対に似合う…
それからこっちの男性用のもカッチリしすぎていないというか、フォーマルなのに普段使いできるのがたまらない…
俺も欲しい…

「あ、今日もフランスから取り寄せた雑誌を読んでるんですね
普段からおしゃれですし、私も何か参考にしようかな」

『あ、梓さん
すみません、今日は少し仕事まで時間があったので長居してしまい…
こんなに雑誌を持ち込む予定ではなかったのですが…』

机に積まれた雑誌は5冊ほど。
最近はデバイスを刷新したので電子書籍としてザッピングをするのですが、やはり見開きのページなどは豪華で目の保養なので紙媒体で見たいこともあります。

「これ、全部ファッション誌なんですか?」

『ええ、まあ…なかには情報誌ながらデザイナーやモードについてのコラムがあったりして、そういった雑誌も楽しんでいますね
あ、これなんかどうです?
今年の夏は少しドレッシーな感じでまとめるのは素敵ですよ』

「わ、すごく素敵なドレス!
ですが…なんだか高価というか、ゴージャスで私にはとても…」

『そうですかね?
梓さん、素敵なんですから何を…えーと…なんでしたっけ、日本人がよくされている…遠慮?じゃなくて…』

「え、遠慮ではなく…」

「僕も、そんなに梓さんはご謙遜なさらずとも素敵だと思っていますよ」

『ああ!それ!謙遜!ご謙遜です!
って……どうしたんですか?』

突如現れたのはエプロン姿の方でした。
イケメンです。
この人、何を着てもサマになります。
ハイスペックスーパー彼氏です。
世の中では最近スパダリなる言葉を覚えましたよ。
こういう人のことを言うのではないかと思いながらもまだご本人には言ったことはありません。
なぜかって?
そりゃあ、またどこでそんな日本語覚えてきたんですかとか言われかねないので。

「どうしたって言われましても、僕のバイト先なんですけど」

「安室さん、今日は朝からですしね」

あれ?
ということは俺が来た時にはいたのか?
ん?

俺はいつ来たのかと首を捻っていたら、そっとパンケーキの皿を下げられた。

『梓さん、俺が来た時はもういました?』

「え?あ、はい
今日は私も安室さんと朝から…」

『俺、何時ごろ来ました?』

「そうですね…
毛利先生のところが丁度騒がしくなった時で…確かお昼前です」

昼前…!
今、俺は3時のおやつにパンケーキを食べたところだ…
あれ、なんで?

『あれ、もしかしてお昼食べ忘れました?
梓さん、俺、ここで何してました?』

「えっと…」

「11時25分、貴方はポアロに来店しいつものソファーへ腰掛けると、真っ先にタブレットを開きながら僕に手で注文を寄越しました
今日は特別だと言って梓さんのカラスミパスタとコーヒーを1つずつ
キーボードを片手で叩きながらパスタを堪能した貴方は、端末を閉まって徐ろに雑誌をカバンから取り出しました
そのカバンにどうやって入れてきたのやら…
それが大体12:30で、それから丹念に雑誌を読み込みながらたまに手を止めて唸っては目をキラキラさせて今に至ります
あ、途中15時ちょうどにパンケーキのオーダーが入りました」

えっ…
俺、仕事より雑誌に集中してたの?

『い、今何時ですか!?』

「17時5分前です」

『Quoi!?』
(えっ…!?)

お仕事は17時からです。
ただの交渉ごとなのですが、こんなにのんびりしていたとは、罪な雑誌です。

「安室さん、よく覚えていますね」

「あまりにも没頭していらっしゃったので、今日はもしや耳が不調なのかと気にかけておりまして」

チラッとこちらを見たイケメンはにこやかでしたが目は笑っていません。
いや、ご心配をおかけしましたが心配したのはそっちですよ。
俺悪くないもんね。
ていうか監視だな、もはや。
過保護なんだから。

『…ストーカーですか』

「心配、と言いましたよね?」

おっと、これ以上反論すると恐らく後で雷が落ちるぞ…

『あ、お、俺…17時からお仕事なのでそろそろ失礼しますね!』

「あ、間に合ったんですね!」

こうやって一緒にセーフ、なんて喜んでくださる梓さん、素敵です。
癒されましたよ、マドモアゼル。
問題はイケメンです。

「折角コーヒーをお持ちしたんですが」

え…?
あの、お仕事、貴方とですよ?

『え、と…あの、17時からなんであと5分…』

「話が進んだのであと約3分ですね」

え…?
というかおかわりをまず頼んでないぞ…

頭にはてなマークが浮かび、それから慌てて雑誌はカバンにしまい込む。

『え、えっと、カフェのおかわりは頼んでいないのと仕事なので失礼したく…』

「これはパンケーキのセットのコーヒーです
後でという指定でしたので
それからそうやってギリギリに仕事に行くのはやめていただきたいものですね、淹れたてのコーヒーもこうして話している間に冷めてしまいますし
あ、あと2分ですね」

『だ、だから…え?セット?
え、単品…いや、甘いから仕事前にと思って今日セットにしたんだっけ…』

「確か安室さんも17時あがりじゃ…」

「ええ
ですのでこれが今日の最後の仕事なのですが、彼がさせてくれそうにありませんね」

『いや、えっと…』

いやいやいや、なんでこんなことになったんだ…
17時から貴方とお仕事なのに直前にカフェを持ってくるってどういう魂胆なんですか、ちょっと…
しかも俺のせい?俺のせいであがれないと…?

「貴方の頼んだコーヒーですよ?」

『あの、えっと…』

「ああ、梓さん、こちらのお客様は僕が話をつけますのでどうぞ注文を取りに行ってください」

「あ、はい!」

小さく溜め息を吐き出す。
ジロリと見上げると、さっきとは打って変わって顔つきが変わっています。
これはお仕事の顔です。

『どういうことですか』

「…すみません、どうも外での仕事は今日控えていただきたい
この連絡すら店内でしたかったので」

そういうことは伝票と一緒に伝えてくれないかな…
それとも紙に残すことも端末を媒介することもアウトなくらい今日はピリピリしてると…なるほど

『それで、どこでどうするんですか?
こっちはその気で来ていたんですよ…』

「ですからコーヒーをお渡ししてるんじゃありませんか
それから、着替えてくるのでその間に解読しておいてください」

では、と半ば強引にテーブルにコーヒーを置かれ、踵を返していった降谷さんを見やる。
少し平和ボケしていたようです。
カフェはいつものブラックではなくカフェラテだったところを見ると、どうやら組織の動きの関係で公安も今日は上手く立ち回れないようです。

いつもあんなスマートなのに、なんで今日はこんな…
スパダリとか言ったの誰だよ
俺か、いや、まだ口にしてないから言ったには入らないか

はあ、と溜め息を吐き出してカフェラテをいただき、そっと窓の外へと目を向ける。
確かに嫌な予感のような、重たい空気はある。
少し人も少なくなったポアロのなかで、静かに啜ったカップの底にはザラザラとした、いつもは存在しない珈琲豆のカスが少し溜まっていた。

…なるほどねぇ、そういうこと

「すみません、お待たせしました」

『遅いです、それからこれからの予定が……』

顔を上げて絶句。
どうしたの。

「あの…」

ええええぇぇ、ちょっと待って
ねえ、ごめん、なんでこんな話してた時に限って今日ちょっとブラックのシャツにテーパードとかさっきの雑誌のいいとこ取りみたいな服装なんですか!?
スマート!
さりげない!
あ、この人確かスマートでした!

『……』

「行きますよ、車出しますから」

『…す、すみません』

「なんですか」

『腰、抜けちゃって…』

「…そこに座ってて何があったんですか」

すみません、あの、雑誌の表紙とか…飾れるよね…貴方…
ごめんなさい、彼氏がイケメンだと本当に心が持たないというか、あの、もう…

「仕方のない人ですね」

伝票をスッと抜いた安室さんはまずカップを自分で下げてから、ササッとゆすいで梓さんにご挨拶。
それからへろへろになってしまった俺をひょいと持ち上げてしまったので、さすがにと思って対抗したが無駄だった。

『ちょっ、下ろしてください!死ぬ!
心臓が過活動して…!』

「腰が抜けたと仰ったからでしょう!
そんなに暴れるなら落としますよ?」

『す、少しくらい待てば回復します!
こんな、こんなの…』

ひえぇ、恐ろしい、イケメンが近い…
なんかいい匂いする…

とりあえずお会計だけはして、助手席に押し込まれた後で顔を覆っていたけど、イケメンの力は偉大です。
意識が飛びそうだった。
なんてことをしてくれるんだ。

「クロードさん、貴方、仕事前だというのによくあんなにのんびりとしていられますねぇ…
こっちは朝から大変だったというのに」

『……』

「貴方が寄越してきた情報のおかげですよ
早期解決には間違いありませんでしたが、ポアロに到着したのはギリギリでしたからね
まあ、貴方のその仕事馬鹿っぷりには毎度…あの、聞いてます?」

肩をトン、とされて顔を上げて悲鳴をあげかけた。

うわ、うわ…!
こういうの、なんか、雑誌のシチュエーションにあるやつ…!
何これ!何これ!
さっきのせいでイケメンの仕草どれを取っても雑誌のポージングにしか見えなくなってきた…
というか雑誌のモデルさん達がこの人に脳内で置き換わっていきます…ごめんね、モデルさん…

『……マルジェラの、シャツ…』

「はい?」

『あ…トム・フォードのサングラスとか…』

「クロードさん」

『黒のサマーコートも良かったな…いや、あれはどちらかといえばジン様かな
うん、レザーのも良かったし、あれは秀一だろうけど今年の夏物は小物含めていいものばっかだったな…』

あ、待って
このイケメンと国民的イケメンと飼い主…
え!この3人、なんて三巨頭なんですか!?
ぜひ!ぜひモード誌の表紙にしてください!

『なんなら俺が出版社に問い合わせて根回しして……いたっ!』

「仕事です」

頭に何かぶつかったと思ったら、イケメンが少しどころかとても静かに怒りながら端末の角をチラつかせました。
ちょっと、角って1番痛いってこと知ってるのかな。

『Qu’est-ce que t’as fait !? 』
(何するんですか!?)

「それはこちらのセリフです
今日は17時から仕事の予定でしたよ
仕事馬鹿の貴方が仕事よりも楽しそうにされる案件、あります?」

あ、とてもお怒りです。
何気なくまた仕事馬鹿を強調しています。

『あの、それは……』

いや、待って。
あの、なんで車内の密室でイケメンと2人きりなんでしょうか。
しかも怒っててもイケメンだよ、この人。

…それにしても、運転席で足組んで澄まし顔されても本当にイケメンだな、この人
え、もうこれで雑誌特集組んでくれないかな、俺のために

「貴方の好きな仕事に…」

『心臓、持たない…好き…』

だめだ、今日はだめです。
まずこの人、俺に服のこと色々言ってくるくせに自分の服は許されると思ってるんですかね。
警察庁にお伺いする時はちゃんと最近開襟シャツもやめてお気に入りのパルファムもなし、言いつけを守ってこれが日本のオフィスカジュアルかと思っていたのに。

「…突然そういうのは、やめましょう」

『…え?』

おっと、またモノローグが口から出てしまったのかもしれない…
しかし言わせる貴方も貴方ですよ…?

「…今日はもうやめましょう」

『え…?降谷さん、お仕事…やめるって…』

「プライベートモードに切り替えてください
今日は外食です」

『…はい?』

「ですから、ディナーにお誘いしてるんです」

いい加減わかってください、と何故か目を逸らされてアクセルを踏み込まれました。
俺、何か言ったのかもしれません。

しかし運転してても本当絵になるな…
しかも…おお…なんかすごいホテル来ちゃった…
え、こんなホテルディナーって、まさか最初から…それでこんな格好してたの?

「…たまにはオフィシャルなのも悪くありませんね
こうしてすぐに貴方をホテルのディナーに誘うことができる」

どつやらたまたま、本当に偶然だったようです。
どういうことだ。
いちいちスマートすぎる。

『…あの、お仕事は…』

「プライベートと言いましたよね?」

『…あ、はい』

いつのまにか降谷さんは安室さんでした。
しかしこんなホテルディナーも久しぶりなので、ちょっとドキドキです。

「貴方こそ、普段から着飾らずにそうやって僕を翻弄するのをやめてもらいたいものです
いつだってホテルに誘えるような格好ばかりをして、そろそろ雑誌も取り上げますよ?」

『え!なんでですか!
俺の情報源が…』

「情報屋も大概にしてくださいね
今は彼氏の前なので」

行きますよ、と言われたけど暫く突っ立ってしまった。
後ろ姿もイケメン。
え、なんでしょう、今日は。

神様…
今日もまた俺に何か試練を与えようとしていますね…
がんばりますよ!



「…このまま泊まれるかと思ったが、やはり猫は猫か
気まますぎて、僕の膝に乗ってもすぐ降りては居眠りを決め込んで…
起きたら覚悟しておいてくださいね」




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