過保護な彼のセリフ 1.俺の目の届く範囲にいてくれ | ナノ
過保護な彼のセリフ
1.俺の目の届く範囲にいてくれ

「でね、日向君! その敵は一定ターン経過すると、自分と仲魔の体力を全回復するんだよ!」
「じゃあ、その前に敵の仲魔を倒さないといけないわけか」
「うん! しかも仲魔によっては確率で眠らせてくる相手が居て……」
 ある日も俺は、いつもと変わらず過ごしていた。その日は七海と過ごし、あるRPGの、超高校級の強さの裏ボスの話を聞きながら帰る途中だった。七海は興奮しながら、その裏ボスについて語っている。
「ねえ狛枝おにぃ! 首に紐を結んでバンジーしてよ!」
「はは、西園寺さん、それって首つりだよね?」
「……ねえ日向クン、あれ」
 七海が指差した先では、二人の男女が話していた。片方、小さなツインテールの少女、西園寺が無理難題を押し付け、もう片方、ボサボサの白髪、狛枝が爽やかな笑顔を振りまいている。
「そうだよ。普段あれだけ死ねるなんて言ってるんだから、出来るよね?」
「うん、もちろん! ボクは希望の為なら喜んで死ねるよ! いつどこで首を吊った方がいいか、指定とかあるかな?」
 話はどんどん不穏な方向に進んでいく。
「日向君」
「ああ!」
 これ以上は傍観出来ない。最悪な事態になる前に、七海と顔を見合わせて二人に駆け寄る。
「その言葉、切らせてもらうぞ!」
 そして俺は、西園寺と狛枝の間に割って入った。
「ひ、日向おにぃ!?」
「ん、どうしたの日向クン。ボクが西園寺さんと二人きりで話してるから、妬いちゃった?」
「はあ、なに言ってるの狛枝おにぃ? 気持ち悪いんだけど」
「……そんなことより、狛枝、お前は死ぬことは出来ない」
 ……確かに少し嫉妬したのは事実だ。けど、そんなことはどうでもいい。
「ううん、ボクはいつだって死ねるよ! 希望の為ならね!」
 狛枝の笑顔は、先ほどの爽やかなものからどこか狂気を含んだものへと変わっていた。
「それは違うぞ!」
 しかし、それは不可能だ。なぜなら……。
「お前の意思がどうこうじゃないんだ。この修学旅行中はウサミの監視がある。ウサミがそんなことを許すはずが無いんだ!」
 そう、この島には何十台もの監視カメラが仕掛けられている。それがある限り、自殺どころか暴力すら許されないだろう。
 先ほどの狛枝の言葉、それが実現不可能な内容であることを突きつける。
「それは違うよ。日向クンは知ってるかな? 実はこの島の中のある場所には、監視カメラが無いんだけど」
「え!?」
 まさかの反論ショーダウン。狛枝の目は、嘘を言っているようには見えない。
「……」
 まずい、何も言い返せない。
「……おーい、日向クン?」
「……」
 ……。
「……とにかく、死のうなんて考えるなよ! それに西園寺もだ、よりによって狛枝にそんなことを言うなよ」
「えー、だってこの島何も無くてつまんないじゃん」
「だからってそんなこと言って本当に狛枝が死んだら、きっと小泉もすごく怒るぞ」
 西園寺は小泉とは仲が良い。小泉を出せば、きっと説得されてくれるだろう。
 ……しかし予想とは裏腹に、西園寺は俯いて黙ってしまった。
「……えーっと、西園寺?」
 ……まずい、このパターンはもしかして……。
「……じゃあ、おにぃは?」
「……え?」
 もしかしてまた泣き出してしまうのでは、と思ったが、なんと西園寺は少し頬を染めながら俺を見つめてきた。
「もし狛枝おにぃが死んだら、日向おにぃはどうする?」
 まさか、以前俺が西園寺に言った言葉を、俺は西園寺の味方だ、というのが本当かどうか試しているのだろうか。
「日向君、ここはきっと選択肢次第ではバッドエンドになっちゃうよ。気をつけてね」
「さあ日向クン、西園寺さんにキミの希望を見せる時だよ!」
 七海と狛枝も、多分応援してくれている。……俺は。
「……俺は、西園寺にそんなことをさせない」
「どうやって?」
「ずっと西園寺の側にいる。それで西園寺を退屈させたりしない。それなら、西園寺もあんなことを言わないだろ?」
 後ろから、二人のおおっという嘆声が聞こえてくる。……もう今更だけど、すごく恥ずかしくなってきた。
「……これでいいか、西園寺」
 西園寺は俯いて口をモゴモゴさせている。俺も本当は恥ずかしくて何も言いたくはないけど、後ろの二人の視線に耐えかねて気付いたら確認の言葉を発していた。
「……ひ、日向おにぃって本当凡夫だよね。今更奴隷ってことを自覚するなんて、遅過ぎるんだけど。おにぃは私専属の奴隷なんだから、そんなの当たり前でしょ」
 西園寺は口調こそ平常のように生意気に振る舞っているが、耳まで赤く染めている辺りこれも照れ隠しなのだろう。
 そんな西園寺を見ていると、自然と笑いが漏れてきた。
「な、なに、日向おにぃ? いきなり笑うなんて、どうしようも無いくらい気持ち悪いんだけど」
「……いや、西園寺がかわいいなって思って」
「おおっ、一気に好感度を上げにきたね」
「それは違うよ、七海さん。ここはゲームの世界じゃなくてジャバウォック島なんだから、らーぶらーぶ度の方がいいんじゃないかな。……七海さん、どうしたの?」
「あ、ううん、なんでもない。そうだね、日向君は一気に親密度を上げにきたね」
「うん、らーぶらーぶだね」
 ……後ろで盛り上がらないでくれ。恥ずかしくなるだろ。
「……おにぃ、やっぱりロリペドの犯罪者予備軍なんじゃないかな」
「な、なんでだよ!?」
 まさかの犯罪者予備軍認定。戸惑っていたら、西園寺に手首を掴まれた。
「なにしてるの日向おにぃ、私を退屈させないんでしょ? ほら、早く行こうよ!」
 西園寺は俺の隣に来て、無邪気な笑顔で見上げてくる。
「行くって、どこに?」
「えへへ、おにぃと一緒ならどこでもいいよ!」
「……言ったからな?」
「もしつまらなかったら、首に紐結んでバンジーしてもらうから」
「ええ!?」
 ……これは選択を間違えたら大変だぞ。悩んだ末、俺は無難に遊園地に西園寺を連れていくことにした。
 かなり楽しんでもらえたみたいで、俺は上機嫌の西園寺を抱っこして部屋まで連れて行って、自分の部屋に戻った。
 ……明日からも、西園寺から目を離さないようにしないとな。
 ベッドに横になり天井を見上げてそんなことを考えていると、俺はいつの間にか眠ってしまっていた。

確かに恋だった様より、お題をお借りしました。お題タイトルの通りです
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