“日向おにぃ”と“西園寺” | ナノ
「今日は結構素材が取れるな」
「まあ、凡夫の日向おにぃにしては上出来だよね」
「凡夫って、お前なあ……」
ジャバウォック島での生活もしばらく経ったある日、俺は西園寺と二人で森の探索に来ていた。
西園寺から吐かれる相変わらずの暴言ももう慣れた為、今では呆れ混じりにため息を吐いて終わる。
そしてまた二人で草餅と桜餅の違いや、和菓子の良さなどたわいの無い話をしながら探索を続ける。
……最近は、こうして俺と西園寺で探索をしたり、二人で過ごしたりするのは頻繁になってきている。
もちろん七海や狛枝、それ以外のみんなとも過ごしてはいるが、回数や時間で言えば西園寺が一番多いだろう。
理由はまあ、この年代の男女にはありがちだけど、最近俺と西園寺が付き合い始めたからだ。告白は俺からだ。西園寺はロリコンだの犯罪者予備軍だの奴隷だの散々言ってきたが、更に押すと静かに頷いた。
正直自分でも驚きだ。まさか自分がこんな小さくて口がかなり悪い女の子を好きになるとは思わなかった。
しかも自分のことを同い年なのにおにぃと呼んでくるのだからなおさらだ。
自分は本当にロリコンなんじゃないのかと不安になってくる。
……そういえば。
「なあ、西園寺」
頭の中でふと、ある疑問が浮かんだ。
「ん、どうしたの日向おにぃ?」
「どうして西園寺は、俺をおにぃって呼ぶんだ?」
そう。さっき自分で考えていて思い出したが、俺と西園寺は同じ年齢だ。しかも一応付き合っているのだ。
おにぃと呼ぶのは変だし、……正直、背徳感がある。それを伝えると西園寺は、いたずらっぽく笑いながら言った。
経験上、西園寺のこの顔はロクなことを考えていない顔だ。
「じゃあなんて呼んでほしいの? 酸素を無駄に消費するしか脳のない凡夫? それともロリペドのド変態? あ、努力しても無駄な凡人の典型って顔の日向おにぃには典型的凡人があってるよね。うん、じゃあこれからはそう呼んであげるよ」
……やっぱりな。もうこんな暴言を吐かれてもそんなに怒る気の湧かない自分が嫌になってくる。けど……。
「そういうことじゃない、西園寺」
後、俺はロリペドのド変態じゃない。はず。
「じゃあなに? 典型的凡人」
「あのさ。呼ぶなら、日向、でいいだろ」
「え……」
俺がそう言ったら、西園寺は顔を赤らめながら固まってしまった。……おにぃの方が恥ずかしくないか? っていうのは禁句だよな。
「な、なにそれおにぃ!? 馴れ馴れしいを通り越してエロいよ、エロエロだよ!」
「どうしてそうなるんだよ!?」
まさかここまで恥ずかしがられると思ってなくて、なぜかこっちまで顔が熱くなってきた。
「ま、まあ日向おにぃがどうしても呼んで欲しいなら、これからそう呼んであげないこともないけど?」
「どうしてもだ、頼む西園寺」
頬を染めながら言う西園寺に、俺はすぐ返事をする。
「うわぁ、やっぱりロリペドのド変態だね。えっと……、うんと、その……。ひ、日向……」
西園寺は真っ赤になってしばらくうつむきながら口をもごもご動かした後、やっと小さな声で言った。
「良く言えたな、西園寺」
俺が頭を撫でると、西園寺は耳まで真っ赤になってうるさい、と叫んでそれからしばらく黙ってしまった。
俺もそれに静かに寄り添っていたら、思わぬ反撃に遭う。
「じゃあ、……日向、……も、西園寺って呼ぶのやめてよ」
「え?」
それは予想外だった。まさかここで反論ショーダウン、じゃなくて反撃が来るとは。
「前に言ったでしょ? わたしさ、西園寺って名字嫌いなんだよね。だから、西園寺って呼ばないでよ」
「ええ!?」
じゃあなんて呼べばいいんだよ!?……って、一つしか無いよな……。……しかたない。
「……えっと。……日寄、子?」
って、自分で言っといてあれだけどなんで疑問形なんだ。
というかこれ、すごく恥ずかしい……!自分で自分が真っ赤になっているのが分かるほど、さっきよりも顔が熱くなってきた……!
そしてそれは俺だけじゃなく西……、日寄子もだ。
真っ赤になって口元を隠し、目線を逸らしている。
「……俺が悪かった、西園寺! 今まで通り日向おにぃでいい!」
俺はこの空気と恥ずかしさに耐えきれなくなって、とうとう謝ってしまった。
「じ、自分から言い出したくせにやめてくれなんて、本当度胸ないよね日向おにぃって!」
「か、かもな。本当に悪い西園寺!」
「ほ、本当、奴隷ならもっとしっかりしてよね日向おにぃ!」
そうして俺達は、先ほどのことを思い出さないようにしながら探索を再開した。
……けど互いに名前を呼ぶだけで思い出して赤くなってしまって、帰ってからみんなにからかわれるし西園寺が泣き出すしで散々な目に遭った。
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