蛍の寝床 ■ 「銀魂深夜の即興小説45分一本勝負」:2014/8/10
蛍の寝床
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「わあ」
素直に上がった感嘆の声に、胸の奥をやわい熱が擽った。
張った蚊帳を整え、音と光もなく滑り込んだふたりの寝床。
古く青い瓶に捕らわれていた蛍を、夏の夜、風鈴の音が鳴る部屋にそっと放った。
「綺麗だ」
「そうだな」
「映画みたい」
「あァ…そうだっけか」
「昨日見たんだ。それはもう切なかった」
「ふぅん」
はたと思い当たる映画の名前に、漏らした苦笑を見逃されることは無かった。
その映画のようだというなら、俺とズラ子の命はもう長くない。
「なあ晋助、死んでは駄目だぞ?」
「ハハ、死ぬのは俺もご免だな」
「…うん。ならいい」
淡い桃色の襦袢。薄い布の下から浮かび上がる白い素肌。
長く清い黒髪が、月明かりに照らされて津々と輝いている。
蚊帳の中を飛び交う蛍が指先に止まり、ズラ子は擽ったそうに笑った。
「…明日には死んでしまうのだろうか」
「さァな」
「後で窓を開けよう」
「逃がすの」
「こんなに狭い場所で一生を終えるなんて、俺だったら嫌だからな」
「俺ァ別に、此処なら構わねェぜ」
「え?」
「…お前が側に居るなら、俺ァ構わねェよ」
抱き寄せた肌に唇を落とし、紅い痕で素肌を飾る。
ふわりふわりと蛍の光に包まれて、火照る躰を抱き締める。
薄く開いた唇に舌を滑り込ませ、甘い唾液に心を酔わせた。
「…ふふふ、」
「なに」
「此処ならいいって。晋助、このままだと腹上死だぞ?」
「…何、お前さん「上」がいいのかィ」
「…莫迦」
「それにまァ、こいつらも本望だろうよ」
「本望?」
「確かにこのままじゃ明日には死んじまうだろうが、お前さんが覚えてる」
「覚え…?しん…、あ、あ…っ、」
ずるりと肩の襟を降ろし、白い鎖骨に噛み付いた。
汗で湿った首筋をぬろりと舐め上げ、漏れる悲鳴ごとズラ子の躰を食い荒らしていく。
「だめ、駄目だしんすけ、」
「なんで」
「蛍が、ほたるがみてる」
「だァら、ちゃあんと見せといてやれよ」
「しんすけ…?」
「そらァ好い光景だろうぜ?死ぬ前に見れる絶景だからな」
「なに、…を、あっ、ぁ、しん…、っ…!」
開いた脚に顔を埋め、小さな光を辿って奥を暴く。
剥き出された白い素足にくちづけて、嫌々と震える腰に鈍い熱を注ぎ込む。
互いに迎えた白い頂の向こう側。
とろりとろりと口元を濡らしたズラ子の頬に手を添えて、留めていた腰を再びゆるく打ちつけた。
― ああ、
もう何度、こうしてズラ子に殺されただろうかと考えて、歪む口元をぺろりと舐める。
闇夜を彷徨う黄色い光が、僅かに嗤ったような気がした。
終
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お題:「蛍の寝床」
提供元:「銀魂深夜の即興小説45分一本勝負」:2014/8/10 掲載分[ 75/79 ][*prev] [next#]
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