01:きみがすき。
きみがすき。■高桂(3Z) きみがすき。
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すぅ、すぅ、
腕の中で、眠る、
規則正しい、吐息。
つい、先刻まで、乱れすぎていた、息。
脱ぎ捨てられた制服に、ちらり、眼をやって。
壁に掛けておこうかと思って、そのまま、に、しておく。
目が覚めたら、きっとその事で怒るに違いない。
皺が出来るだろう、とか、散らかったままにするな、とか。
なにより、腕の中の温もりから離れたくなかった。
「ん…、」
もぞ、もぞ、
肌寒いのか、二人、包まった毛布の中で、密着してくる。
ぴたり、くっついた、肌。
躰を繋げているときとは、違う、熱。
顔にかかった長い黒髪を避けて、額に唇を寄せる。
触れるだけのキスを、瞼に、耳に、頬に、唇に、
幾度も繰り返していると、擽ったそうに、少し綻んだ顔を胸元に埋めてきた。
無性、に、愛しくなって、
そっと顎を上げて、唇を重ねようとしたとき、
うっすら、閉じていた、瞼が、開いた。
「…しん…す、け、」
寝ぼけた声で、名前を、呼ぶ。
「なンだよ、」
にやり、わらって、唇を重ねて、呼吸を奪った。
いつ、触れても、あまい、味がする。
息苦しくなったのか、力の入っていない手で躰を押し返してくる。
「…んぅ、むぅー、」
あぁ、間抜けな声。完全に寝ぼけてやがる。
ぷは、
唇を離すと、まだ覚めきっていない眼をこすって、俺を見る。
「…こた、」
昔、まだ幼かった頃の呼び名を、耳元で囁いて、また額に唇を寄せた。
いつもの、優しい、こた、の、匂いがする。
ぼんやりしている顔が、ふにゃり、笑顔になった。
「しんすけ、」
くすくす、わらう。
「あ、なンだよ、」
「しんすけ、だ、」
優しい手が顔を包んで、
指先が、耳元の髪に、絡む。
「しんすけ、」
「…こた、」
「しんすけー、」
やっぱり、くすくす、笑いながら、名前を、呼ぶ。
無防備に、笑う顔が、すごく、というか、ものすごく、可愛い。
昔の夢でも、見てるのか、
昔から、こたは天然で、けど何処か大人びていて、
子供らしい顔じゃなく、何処か、哀しい顔で笑うやつだった。
くそ真面目で、なんでも一人で抱え込んだり、
全部を一人で、解決しようとするやつで。
もっと頼って欲しくて、
もっと縋って欲しくて、
後について歩くのが、嫌で、
横に、並んで、歩きたくて、
気づいたら、
俺だけを見て欲しくて、
俺だけを頼って欲しくて、
他の奴に、渡したく、なくて。
中学三年の冬、に、
言葉と、躰で、存在を、縛った。
「まだ夢ン中かよ、」
「ふふ、しんすけだ、」
ぎゅぅ、
顔に寄せていた腕を首元に降ろして、柔らかい唇が触れた。
ここまで甘えられるのは、なんだか、少し、不思議な、
「…いっそ普段から、こうしてろ、お前、」
ふわり、躰を抱きしめて、頭を撫でた。
「…しんすけ、」
「あァ、」
なんだよ、ばか、
ばかじゃない、かつらだ、
寝ぼけてるくせに、変なとこだけしっかり覚えてやがる。
「しんすけー、」
ふにゃり、
また、無防備に、
本当に、嬉しそうに、笑って、
「だいすき。」
まるで子供が内緒話をするような、
小さな、優しい声で、云って、
そのまま、すぅ、と、眠った。
□
「晋助、そろそろ起きんと…、」
「まだいいだろ、」
「しかし学校が…、それに制服、どうするのだ、皺くちゃではないか、」
朝、小太郎の携帯のアラームで二人同時に目が覚めた。
毎朝、きっちり六時に鳴る、音。
「いいじゃねーか、今日はもうサボり、」
「良いわけなかろう、冬休みだからといって補習はしっかり…、」
「うるせぇな、」
ぐい、躰を引っ張って、押し倒す。
「こら、晋…っ、」
「こた、」
不意に、昔の呼び名で、呼ぶ。
なんだ、どうしたのだ、急に、
不思議そうな顔で、きょとん、見つめる。
「だいすき、」
瞬間、小太郎の顔が、真っ赤に染まった。
「…っ、、」
「これで、おあいこ。な、」
「な、何が…っ、、」
引くどころか、ますます赤くなる顔が、愛しい。
「てめぇに聞け、」
少なくとも、俺は、お前ほど顔を赤くしてない。
多分、きっと。
押し倒した小太郎を抱きしめて、
再び眠気に沈み始めた意識をそのまま放り投げた。
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桂さんにだいすきって云ってほしかっただけ!です!
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[mokuji]
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