13:sofa
sofa
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小太郎とふたり、リビングで映画を見ている途中のことだった。
電池の切れかけたインターホンが途切れ途切れに鳴り、短く舌打ちをして受話器を取る。
何だろうか。こんな時間だというのに。
無愛想に何だと聞くと、小太郎に荷物が届いているという。
「印鑑かサイン、お願いします」
俺と同じように無愛想な配達員からペンを受け取り、少々乱暴に苗字を書いた。
一瞬だけ眉を顰めた配達員に目もくれず、さっさと受け取ってドアを閉める。
届いたのは、高さが20cm程の平らな段ボール箱だった。
送り元はファーストネット。見知らぬ名前だ。小太郎が何かを注文したのかもしれないが、特に何も聞いていない。
「小太郎」
「なあなあ晋助、すごいぞ!主人公が猫に…」
「荷物。お前宛て」
「え?」
くるり。首だけで俺に顔を向け、小太郎が抱えた荷物をじっと見つめる。
「ファーストネットとか、書いてあるけど」
「えっ!もう来たのか!」
きらきらと目を輝かせ、小太郎がソファから弾かれるように立ち上がった。
モダンな色を散りばめたアンティーク風のソファは、引っ越し祝いにと伯父が買ってくれたものだ。
一端の大学生にはきっと手も届かないような値段なのだろうが、流石に細かい金額は教えてくれなかった。
全体に左右非対称の色布がパズルのように組み合わさっているソファ。
流石に高級ブランドだ。座り心地はこの上なくヒトを駄目にする。
つまりは、ソファの上で小太郎に手を出す機会も格段に増えたということで。
「何、お前が頼んだの?」
「うん。一目惚れだったんだ」
「一目惚れェ?」
「折角だから、早速被せてみよう」
るんるん、と。
まるで花畑に居るかのような効果音が聞こえてきそうだったが、まぁいいかと思う。
嬉しそうな小太郎を見るのは、何だかんだとやはり嬉しい。
ビリリ、と少々乱暴にダンボールを開け、小太郎が中から何やら白い布を取り出す。
包装のビニールをこれまた乱暴に引き裂いて、床の上にぱさりと落とす。
出てきたのは、大きな白い布に黄色いくちばしと、大きな目玉がふたつ、でかでかと描かれたアレだった。
「…………一応、聞くけど」
「うん?」
「何だよ、それ」
「ステファンのソファカバーだ。しかもシルクサテンだぞ!」
「シル…あァ、そう」
「ほら、すべすべだろう?」
両手を布にくぐらせて、白い布を俺の頬に擦り付ける。
すべすべと両手を動かしながら、にこにこと笑っている小太郎は心底可愛い。
が、色々と納得できていない俺の心には、もやもやとした霧が広がっていくばかりだ。
「付けンの、これ」
「うん」
「…気に入ってなかったのかよ、その柄」
「え?」
ちらり、目だけでソファを見ると、小太郎が戸惑ったように視線を揺らした。
どうやら気に入っていなかったわけでもないらしい。が、それにしては挙動不審だ。
付け込むなら今しかない。そう思って小太郎の両手を布越しに握り締めると、観念したかのように溜息を吐いた。
「…違うんだ、その、」
「何だよ?」
「背中が、痛くなって…」
「はァ?」
「だ、だから!晋助と、…その、したあとに、背中が…」
そこまで言って、小太郎がもごもごと口篭る。
それでもうすべて察して、布ごと小太郎を抱き上げた。
色々と反則だ。
直前まで心を覆い尽くそうとしていた霧は、もう何処にも見当たらない。
我ながら現金だなと思うのだが、仕方ない。小太郎が可愛いのが駄目なのだ。
だから俺は、誓って一切悪くない。
「し、しん…?」
「今日はベッドな」
「え?」
「初日に汚されたンじゃァ、そいつも不本意だろ」
「ち、違う!そういうことを言ってるんじゃない!というか、映画の途中じゃないか!バロン殿の活躍を見なければ…!」
「それはまァ、後でな」
「駄目だ!だって録画をしていないんだぞ?次にいつあるか…」
「誘ったのはお前だろ」
違う違うと喚く小太郎の唇を塞いで、新品の匂いのするベッドに小太郎を押し倒す。
丁度良い。真新しいベッドに、早く小太郎の匂いをつけようと思っていたのだ。
その口実が出来るのは有り難い。
一度強く名前を呼ばれて、にやりと微笑み返してキスをする。
時間を掛けてたんまりと舌で愛してやれば、小太郎がすっかり大人しくなる事など百も承知だ。
柔い舌を思う存分吸って、小太郎を充分に楽しんだ夜からすこしあと。
小太郎が買ったシルクサテンのソファカバーに心底感謝するようになるのは、また別の話だ。
おしまい。
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3Z延長戦の大学生は完全にパラレルです。すごく…楽しんで書いてます…(爽やかな笑顔)
それにしてもステファン関係ネタが好きすぎて駄目ですね。
(いっこ前の「手料理」と似たような匙加減でお送りしております(自己申告
高桂楽しすぎて頭がぱーんしてるのは通常運転です(どういう)
2014/5/3[ 13/79 ][*prev] [next#]
[mokuji]
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