09:手紙。 ■高←桂。桂さんの独白。
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声を上げて泣いたのは、どれくらい前だったでしょうか。
助けてください。
抱き締めてください。
僕を必要だと云ってください。
僕はこの世界に生きていていいのだと、云ってください。
甘えたばかりの言葉を散々喚き散らした幼い自分に、貴方は笑って手を繋いでくれました。
泣き散らした後の呼吸の仕方。
泣き腫らした目の癒し方。
友と喧嘩したときの、仲直りのきっかけの作り方。
甘いものが好きな友の為の、おはぎの作り方。
声を殺して泣く癖を身につけてしまった僕に、声を上げて泣きなさいと教えてくれた。
感情を殺すことは、自分を殺すことです。
僕は、自分を殺すことに慣れてしまっていたのかもしれません。
でも、僕は貴方の足跡を必死に辿って、辿って、辿って。
気がついたら、上を向いたら、ゆっくりと周囲を見渡したら、僕はもう一人ではありませんでした。
喜びも、悲しみも、苦しみも、悔しさも、怒りも、分かり合える友が、仲間がいました。
守りたいと思える人たちも、沢山出来ました。
でも、僕がどうしても守りたい人は、僕に背を向けてしまいました。
貴方が教えてくれた、仲直りのきっかけの作り方を、僕はもう忘れてしまったのでしょうか。
彼が好きだった花や、言葉、考え方、季節、色んなことを覚えているのに、僕の心が彼に届くことが、酷く困難のような気がしてならないのです。
今、貴方に教えを乞うことを、貴方は怒るでしょうか。
僕はただ、彼と一緒に、並んで歩いて生きていきたいだけなのです。
ああ、こうしているいま、両目から零れ落ちる水は、いったい何なのでしょうか。
僕は、泣き方を忘れてしまったのかもしれません。
貴方が教えてくれたことを、僕が忘れることなどないはずなのに。
僕は、僕の心を殺すことなど、出来ないのです。
僕は、彼と共に生きていきたい。
見る世界や、見る景色が違っても、それでも。
僕は、彼の笑顔を願わずにはいられないのです。
/了/
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2012/3/4 掲載
高桂のつもりです。
紅桜篇直後あたりで、心が揺れてる桂さんというか。
泣き方を忘れるって云うのは、色んな意味で辛いと思うのですよ。
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[mokuji]
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