※円バダ
※円堂視点


















目の前、というよりも口の前に差し出された銀色のスプーン。
スプーンの先の丸みのある部分に自らフィットしようとするかのように柔らかくぷるんと揺れるクリーム色と、とろりと流れるカラメル色。
今の状況を簡潔に説明するならば、まだ中身が半分以上残ったプリンの容器を片手に持ったバダップに詰め寄られ、一口分のプリンの乗ったスプーンを口元に突き出されているという状態。
今日は俺の誕生日だったっけ、とか何かの記念日だっけ、と記憶の引出しを開けてみるも今日は至って普通の日。
ただ今日は何時もよりみんなの調子が良かったなぁだとかそんな風に思った、いつもよりちょっといい1日というだけだった。
そんな1日の終わり、俺の家に居候しているバダップが夕食後にいきなり詰め寄ってきたかと思えばこれだ。



「えーと…プリン、食べないのか?」
「食べる」
「じゃあ、こう…だよな?」



スプーンを持った彼の手を取って、向きを変えさせてから彼の口元にスプーンを運ぶ。
しかし何やらお気に召さなかったのか彼の柳眉は一気に真ん中に寄せられ、眉間には深い深いシワ。
そして彼の手が持ったスプーンの先は再び俺の口元に。
紅い双眸に攻めるように見咎められ、スプーンの先に乗ったプリンを恐る恐る口にした。
普段、豪炎寺や鬼道と共に駄菓子屋に寄る時はアイスなどしか買わない為に、プリンを食べるのは本当に久しぶりだ。
甘さとほろ苦さが混ざったその味に口元を綻ばせれば、目の前の彼の表情がようやく和らいだ。



「あれ…?
だけど、いきなりプリンなんてどうしたんだ?」



満足したらしい彼がプリンを頬張るのを眺めつつ尋ねてみれば返ってきたのはたった一言。
とてもシンプルで、だからこそ心に残るたった一言。



「君が甘い物が好きだと聞いたからだ」



少し見当違いなその情報はきっと、マックス達からの変な入れ知恵だ。
確かに甘い物は嫌いじゃない。
だけど目の前におにぎりと甘い物を並べられたなら迷いもなくおにぎりを掴んで頬張る事だろう。
……今までの俺だったなら。



「…今なら甘い物取っちゃうかもな」
「? 何の話だ」
「へへっ、こっちの話!
ありがとな、バダップ」


『ありがとう』の言葉に不慣れな彼の頬が少し赤らむ。
ただ純粋に俺の為に、と行動してくれた彼が嬉しくて思わず笑みを溢せば、訳は分かっていないんだろうけど、彼もつられて笑った。
ああ、うん、なんか理由とか分かんないけどさ、
こういうのを“シアワセ“っていうんだろうな、きっと。















(俺から君へ、君から俺へ)














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バダップ受けチャットで話題になった甘党バダップさんをイメージ。
最初は甘党ではなかったけれど、

円堂さんが甘い物好きだと誰かから嘘の情報をもらう→円堂が好きなら自分も甘い物食べる→気づいたら甘党になっていた

だったらおいしいです。私が。



2010/01/05 夏鈴