※グラバン♀ ※甘くないようで甘いつもり ※バーン一人称 夢の世界でゆったりと停滞していた意識が覚醒に向かって急上昇していく。 またか、と顔を歪めて睨み付けた先に居たのは布団を捲り上げていそいそ潜り込んでくる赤髪。 自分の髪よりも明るいその赤を掴んで本気で引っ張ってみると数本が抜け落ち、相手は小さく痛みにうめいた。 このやり取りをもう幾夜繰り広げた事だろう。 こんな夜がもう二度と来なければいいのにと願っても、こいつ、グランはまたこうしてオレの布団に潜り込んでくる。 円堂守に会った後の、基山ヒロトの格好をしたグランが。 「…そんなに見つめられたら照れるんだけど?」 「はっ、照れるようなガラじゃねぇだろあんたは」 「まぁそうだけどね」 円堂守に会った後の声はひどく甘ったるい事を知っているのだろうか。 オレの知っている声で無くなるのが酷く不快で、わざと背中を向けて目を閉じる。 そして視覚と同時に聴覚もシャットダウン。 背中からオレを抱き寄せるその腕には雑巾絞りの刑。 どうやらかなり痛かったらしい。ザマーミロ。 「いてて……何拗ねてるの?」 「浮気者に制裁を下しただけだ」 「浮気者? ひどいなぁ、俺はちゃんとバーンの事を愛してるよ」 円堂の次にだろと心で悪態をつく。 他の奴らが居る時に円堂の話をするのは目を瞑ってやれるとしても、二人だけの時にもエンドレスで円堂の話をされては萎えるというもの。 こいつは何時からオレに興味を示さなくなったのだろうかと考えてみても、その答えは見つからない。 オレがガゼルと共にカオスというチームを生み出した事はジェネシスの奴らにも知れ渡ってしまっているだろうのに、こいつは何時もと同じ食えない笑みか、円堂の事を話す楽しそうな笑顔のまま。 愛の反対は無関心、それを身をもって知る羽目になるとは思ってもみなかった。 「……オレも浮気してみるかなー」 ガゼルはノリが悪いけどヒートならば事情さえ話せば従ってくれるはず。 こんな口調と態度だがオレも一応れっきとした女だ、真っ当な恋愛くらいしてみたい。 これをきっかけにグランが再び自分の過ちを反省してオレを振り返るようになればいい、そう思った。 しかし。 「ふぅん、お好きにどうぞ」 オレの身体を抱き寄せる腕の優しさや耳元を擽る吐息の甘さとは裏腹な、冷たい言葉。 慌てて振り返ってみてもヤツの微笑は崩れぬまま。 わなわなと自分の唇が震えるのは、怒りからか、悲しみからか。 元はと言えば自分の発言が招いた事だというのに、脳裏を占めるのはグランに対する負の感情ばかり。 しかしヤツは動じる事もなく全て悟っているとばかりに唇を笑みの形に歪ませた。 「……ね、バーン、分かったでしょう? 君は俺からもう離れられないんだよ。 俺が君に対して無関心になればなるほど君は俺に執着する」 「ちが、う、あんたなんか、」 「もう気づいてるんじゃない? 君は俺の…ううん俺だけのものなんだよ」 愛しい、愛しいバーン。 耳元に囁かれたその言葉はオレを絡め取る為の鎖のよう。 気づきたくなかった事実―――――グランの視線の先がオレ以外に向けば向くほど、オレが彼を振り向かせる事に執着していた事実もまた、狂気染みた鎖となってオレの正常な思考に歯止めをかけた。 「…ちゃんと君の事は分かってるよ。 君が何を企てているかも知ってる。 まぁ、今だけは止めないでいてあげようかな」 「グラ、ン」 「愛してる、バーン」 愛を知らずに育った子どもの末路がきっとオレ達なのだろう。 お互いに向き合う術を知らずにただ足掻いて、歪んだ愛情を相手に注ぐ事しかできない、そんな子ども。 二人に歯止めをかけられる者はもういない。 正常から少しずつ歪み始めた歯車はもう歪んだまま直らずに新たな狂気を生んでいくばかり。 「…オレが、あんた以外も好きだって言ったらどうする?」 「別に構わないよ。 俺以外見えないようにすればいいんだから」 「へぇ… ま、せいぜい頑張れよ」 カチリ、オレの中の箍が外れた。 オレを抱き寄せたまま眠りについたグランの腕の中で携帯を操作し、ヒートにメールを送信。 明日から彼にはオレの仮初めの『コイビト』を演じてもらう。 全ては、グランの執着心をオレに向けさせる為。 「…なぁ、グラン」 愛してるぜ。 …狂ってしまうほどに。 狂った子どもの恋愛事情 (何が正しいのかなんてもう分からない) ----------------- リクエストをいただきましたグラバン♀です! 今回はお互いに執着し過ぎるあまりいつの間にか狂気染みた愛し方でしか相手を愛せなくなってさまったグラバンを目指してみました。 書き直しの依頼はいつでも受け付けております。 素敵なリクエスト本当にありがとうございました! 2011/02/16 夏鈴 |