※同棲してる二人(高1くらい)








とん、とん、とん。
台所に立つ彼女の腰を抱き寄せて、その細い肩に顔を埋める。
リズミカルにキャベツを千切りにするその慣れた包丁さばきを見るのが私の日常であり数少ない楽しみであるというのに、今はそれすらしたくない。



「私は女など嫌いだ。
顔を赤らめて告白してきたかと思えば自分の気持ちが受け入れられないと分かるや否やただギャーギャー喚いて自分が作り上げた理想像の私と現実の私が異なる事に怒り狂う様は見ていて愚かしい。
そんな生き物に対して私が愛情を注ぐと思っているのなら大間違いだ私はそんな優しい人間じゃない。
つまらない物に立ち止まりはしないし興味のない物には視線もくれない人間なんだ、私は」



とん、とん、とん。
彼女は何も答えない。何も聞かない。何も反応を示さない。
ただ、部屋に響くのは私の声とリズミカルな音だけ。



「媚びたような眼差しも甘えるような声も自分の身に似合わない厚い化粧も鼻にかかる甘ったるい匂いも、何もかも、」



とん、とん、…
鼓動のように一定に刻まれていた音が不意に止まる。
それが何故か無性に怖くて彼女の腰をさらに力強く抱き寄せるも、彼女の手は私に触れてこない。
今日の献立であるトンカツに添えるのだというキャベツの千切りを水で洗う音、それをザルにあげて水を切る音が聞こえた後に、静かな声が聞こえた。



「お疲れさん、風介」
「はる、や」
「大方、俺の事を悪く言われたとかだろ。
…ありがとな、俺の為に怒ってくれて」



目頭がじわりと滲む。
彼女は私の混乱した思考と言葉から的確に状況と私の気持ちを把握してくれた。
彼女が何でもない事のようにやってのけた事、それは酷く私を落ち着かせる。
腰に回した手に触れた、彼女の白い手を握りしめて掠れた声で囁いた。



「女に限らず…私は人付き合いが苦手だ」
「知ってる」
「…だが、君と、…君と居るのは好きだ」



私の腕の中で身体の向きを変えた彼女は、さぞや情けない顔になっているだろう私を見つめる。
それから小さく笑った。



「知ってる。
ちゃんと、あんたのこと分かってるって」



何年一緒に居ると思ってんだよ、と笑う彼女に柄にもなく泣き出しそうになってその細い肩に顔を埋めて。
ごめんと囁いた私の髪を撫でる手は優しかった。
どこまでも、優しかった。









あなたの手は日溜まりのよう

(温かくて、不意に泣きそうになる)












-----------------

title : ミシェル


時折不安定になる風介と包容力のある晴矢のつもり



2010/12/17 夏鈴