※韓国に旅立つ前 CP無し





















それは、謂わば家族のような物だったのかもしれない。
家族という存在を意識する前に失ってしまった俺がそれを家族と呼ぶのは可笑しな話なのかもしれないが、確かに俺にとってそれは紛う事なき『家族』だったのだ。
それこそ血の滲むような練習だって、日常生活だって、共に過ごしてきた奴ら。
俺の求める熱さに呼応して共に戦ってきた熱い奴ら。
友人とも仲間とも取れないその関係を俺は家族として捉えていた。
あいつらも同じように考えていたのかは知る由も無い。
ただ、俺達の間には言わなくとも分かる何かが確かに存在した。
時には本気で喧嘩をして口論をしてそれでも心の底で信頼しているから背中を預けられた。
―――――俺は今日、そこから離れなければならない。



「行ってらっしゃい、晴矢」



かつての『プロミネンス』のメンバーが並んだ空港内。
飛行機のチケットを片手に、トランクを片手にその場から動けない俺のなんと情けない事か。
何時もはスラスラと出てくる減らず口でさえも今は何の役にも立たず黙秘を貫くのみ。
見送りの言葉を告げた我が幼なじみはそんな俺を見て困ったように眉尻を下げている。
周りの奴等も似たりよったりの表情。
…違う。そんな顔をさせたかった訳じゃない。
ただ俺は笑って見送ってもらって俺もそれに答えて笑って韓国に向かいたかっただけだ。
しかしこのにっくき脚は根が張ったかのようにピクリとも動かない。



「晴矢」
「…うっせぇ、分かってる」



鉛のように重い足をムリヤリ搭乗口に向けて。
俺と同じようにかつてのチームメイトに見送られている風介の下へ向かおうとした時。



「"バーン様"」
「あ?
その言い方は止めろって、」



言っただろ、と続く筈だった言葉は思わず喉の奥に消えた。
振り返った先にあったのは、お日さま園に居た頃と何ら変わりない皆の無邪気な笑顔。



「離れてたってバーン様は私達にとって憧れのキャプテンですから」
「そこん所、忘れないでくださいよ」



固く一文字に引き結んでいた口元が自然と綻んでいくのが自分でも分かる。
それを見た皆が安堵したように微笑むのを見つつ俺は視線を僅かに逸らして後頭部を掻き、それから一人一人と真っ直ぐに視線を合わせ、笑顔を浮かべた。



「…行ってくる」



暖かくて優しくて、少しこそばゆいような気持ち。
柄にもなく赤くなった顔を見られたくなくて皆に背中を向け、振り返る事なく後ろに向かって軽く手を振る。
後ろを振り返らずとも、皆が俺を見送ってくれている事は分かっているから。



「いいものだね、チームメイトって」
「そうだな」



次に日本へ戻ってくる時、一番に迎えに来てくれるのが満面の笑顔を浮かべたお前らでありますように。
俺達二人を乗せた飛行機は皆に見守られながら真っ青な空を悠々と飛んでいく。
どこまでも、高く、高く。









いざ、世界へ

(飛んでいこう、高く高く)















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アットホームなプロミネンスを書こうとして見事に失敗しました



2010/07/12 夏鈴