「俺に隠れて…なんてんだ? 確か…樋口ンとこの一年の砂…なんとか? と話してたっつーから」
「話してたって」
たかが会話一つで。臨戦状態でなければ─まあ光嶺ではそんな状況のほうが少ないが、とはいえ派閥が違うとは言え、言葉を交わすことだってあるだろう。現に童門だって、同じ三年の天知や、今はいないもう一人などとは、よく駄弁っていたものだ。
「どうかしてんぜ」
「いまさらだろ?」
「てめぇで言うな」
上滑りしている。腹の探り合いなぞただでさえ性に合わないというのに。
そもそも、なぜ自分はここに来たのだろうかと、今更ながらに童門は思った。あのまま柾木をやり過ごして放っておくという選択肢があったではないか。
なにをしているんだ、と押し黙った童門の苛立ちに油を注ぐ一言が投下されたのは次の瞬間であった。
「そうそう、童門、お前暇ならさ、あいつの相手してやってよ」
「はぁ?!」
「特別に許可してやってんだよ、俺以外の野郎とヤんの。さすがに入れっぱなしってだけじゃカワイソーだろ? 俺は夜までどうにかしてやる気ねぇから」
あ、ただし妙な病気持ってそうな奴以外って条件はあるけど。とくすくす笑う吉岡を見る童門の眼は嫌悪と疑問に塗れている。
とてつもなくおぞましい、わけがわからない男だと思ってはいたが、ここまでだっただろうか?

「おまえだって興味持っちゃったんだろ? 千春に」
「は? 寝ぼけたこと──」
「違うとは言わせねーよ童門。じゃなきゃなんでおまえ、わざわざ一年ごときが具合悪そうだからってだけで首突っ込んできたんだよ?」
「………」
「珍しくも俺が可愛がってるなんて噂がくっついてる犬だからか? 違ぇよな? おまえ、そういう不粋で下種なこと嫌いだもんなぁ」
「…べらべらとうるせー野郎だよおめぇは」
痛烈なまでに不快な吉岡の口調と言い分であったが、童門は殴りかかることもなくため息をつきた。
肩にとびきりの重石を乗せられているような気分だ。目の前にちらちらと、金色の泡が弾けては散っている錯覚が、灼きついたように離れない。

まったく、本当にどうかしてるぜ童門醍吾。

吉岡と自分に向けて浮かべた笑いは苦い。
無言のままに交わされた視線の攻防は、童門が背を向け出口に向かったことで終わりを告げた。
振り返る寸前に、視界の端に霞むように浮かんでいた吉岡の口元の微笑が不快極まりなかったが、あえて無視をする。
「頼んだぜ、童門」
哄笑と共に投げ掛けられた言葉は当然無視し、童門は荒々しく扉を閉めた。


吉柾前提童柾サンプル@


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