君そら 派生編 | ナノ
番外)南野くんのホワイトデー


 毎年、3倍以上のお返しを貰っているのではないだろうか? と、これまでのホワイトデーを思い返して気が付いた。それを証明するかのように、去年のお返しは高校生にはあまりにも不釣り合いな高価なモノだった(予想だけど)。
 だから今年は先手を打ってみた。
「バレンタインのお返しは花が良いな」
 と、言うと彼は目を丸めた。
 つられるように私も目を丸めた。
 今更ながらに気がついたのだ。リクエストを聞かれた訳でも、くれると約束したワケでもないのに、お返しをねだるなんて自意識過剰もいいところじゃないか。
 がめついと思われたかもしれない。
(恥ずかしい……!!)
 さっきの発言を取り消したい衝動に駆られて、やっぱり無し! と、バッテンを作りかけたが、でもやはり、と思いとどまった。
 腕を持ち上げた拍子に、制服の上から隠して身に付けていたブレスレットが私の肌を撫でたのだ。すっかり馴染んだ金属の感触を思い出して、自分の行為を正当化することにした。
 コレは、去年原価千円そこらのチョコレートが桁違いに高価な品に化けて返ってきたモノだ。大切に使わせて貰っているものの、正直、いたたまれなさを感じてしまう。花なら彼の得意分野だし、こう言ってはなんだが、タダで済ませられるだろう。
 しばらく間を置いた蔵馬は「珍しいね」と、言った。
 そういえばリクエストをしたのは初めてかもしれない。不自然を悟られないように「女の子ですから」と返した。私もそうだけど、花を貰って喜ばない女の子はいないと思う。
 だけど、私の気遣いが透けて見えたのだろうか。「他にはある?」と追加を問われてしまった。そうくるとは思わず、少し言葉に詰まったが、
「それじゃあ、髪をいじらせて!」
 風になびく彼の長い髪が目に入った途端、思ってもみなかった言葉が飛び出した。普段からあまり触らせてくれないとあって、つい、チャンスかもしれないと思ってしまったのだ。
 再び目を丸めた彼は「いいよ」と溜息を吐きながら言った。しぶしぶのようだが、高価な宝石を貰うよりよっぽど嬉しかった私は素直に喜んだ。

 そして、ホワイトデー当日。
 彼の部屋に招かれて、可愛らしいブーケを貰った。
「ふふっ、楽しいなぁ」
「……オレはあんまり楽しくないんだけどね」
 そしてコレがメインだと言わんばかりに、彼の髪を散々いじらせて貰った。やってみたかった髪型を一通りこなし終えた後、ぐったりした蔵馬の背中に擦り寄った。
「ありがとう」
「それはオレの台詞だよ」
「そう?」
 ちょっとはしゃぎ過ぎたか、もしくは彼の体温が心地よかったからかもしれない。瞼の重みを感じて少しだけ目を閉じた。
 うまくいったという思いもあって、私は上機嫌だった。
 だけど。
 次に目を開けた時、色とりどりの花のシャワーが降ってくるなんて、誰が予想できただろうか。
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