君そら 派生編 | ナノ
番外)謹賀新年SSS


 昔はともかく今の私にとって、滅多にない着物を着れるお正月は、密かに楽しみなイベントだった。
 手伝ってくれると笑顔で言う母の申し出をありがたく頂戴し、彼女が若いころに来ていた振袖を着せて貰う。成人式には貴女専用の、新しいモノを用意してあげるわね、と言ってくれるが、今着ているモノで十分だと思う。そう言っても、父も母も、一生に一度なのだからと頑として譲らない。
 せっかく買って貰えるのなら何度も着なくちゃ、と言うと、今度は、嫁に行かないつもりなのかと怒られた。理不尽を感じても仕方がないと思う。
「……秀ちゃん、おまたせ」
 気合を入れてめかし込んだのだから、もっと気分が高揚してもいいハズだけど、準備の段階で疲れ果ててしまった。それでも蔵馬に褒めて貰っただけで、すっかり気を良くしてしまうのだから、私も現金なものだ。
 新年最初の初詣。両家の親は混んでいるのを理由に、三が日が過ぎてから参る年が多い。今年もそのパターンになった。「元旦に参らないと、お正月を迎えた気がしない」というのは私の主張だ。中学に上がってから、蔵馬と二人で行くのが恒例になっている。
 参拝のあと、私が担当する買い出しを終えて待っていると、すっかりボロボロになった彼がやってきた。
「お疲れ、今年は一段と凄かったね」
「まぁね……」
 いつの頃からか、私はお守りや破魔矢の買い出し係りを、彼は――すっかりこの神社の目玉となった餅まきのイベントの――お餅をゲットしに行く係りを担当するようになった。取ってきてとは言われていないが、持って帰ると志保利さんが喜ぶのだとか。お正月早々縁起がいい、と笑って。
 ゲットした小餅をくれる彼に、頼まれたお守りを渡して、もう一度お疲れ様と言った。
 もみくちゃにされたお蔭で、よれてしまったコートやズボンを整えた彼と帰路についた。神社から出たのはついさっきなので、まだまだ人が多い。足元に気を付けながら石段を下り始めた。
 高い所から下っているので、参拝客の姿が一望できた。私のように着物姿の女性もいたが、時たま男性もいた。ふと、随分と蔵馬の着物姿を見ていないことに気が付いた。思い出せるのは小さな頃の、志保利さんが袴を履かせていた姿だ。
「貴方はどうして着物を着ないのかなーと思ったけど、あの人混みに飛び込むなら……っ!!」
 横を歩く彼を見上げながら、先ほどの凄まじさを思い出していると、すっかり足元が疎かになってしまった。
 慌てて手すりを掴むより早く、蔵馬の腕に支えられた。
「こういう事もあるから、オレは普段の格好でいいんだよ」
 体制を整えて貰ったあと、しっかりと手を握られた。気恥ずかしさを感じると共に、やっぱり彼はキザだ、と、新年早々から思った。
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