君そら 派生編 | ナノ
番外)Happy Halloween


「ねぇ、今日はどうしちゃったの? 変じゃない?」
「何が?」
 蔵馬はまるで分からない、といった風に首を傾げた。環は驚いた。さっきから道行くひとは、みな奇抜な格好をしたひとばかりだというのに、彼は気づいていないのか? いや、彼に限ってありえないと頭を振る。
「おかしいでしょ!? あそこの牙を生やした男のひとは夜会でもないのにタキシード姿だし、あのひとは毛むくじゃらの雪男だし、あのひとなんてゾンビじゃない! いいの!?」
「いやだな、今日はハロウィンじゃないか」
「…………ハロウィンって、ケルトの収穫祭の、あの?」
「そう、そのハロウィンだよ。ほら」
 蔵馬が指差した方を見ると、先程のタキシード姿の紳士が小さな子供たちに「Trick or Treat!」とお菓子をねだられている。彼は笑顔で手に持ったバスケットから色とりどりのクッキーが入った小袋を取り出し、渡している。
「だからって…………あれ?」
 よくよく見ると雪男やゾンビまで同じようにお菓子を配っているではないか。実に和やかにイベントを楽しんでいるように見える。
「ねぇ。魔界は霊界の次に、だったよね?」
「そう聞いてるね」
 霊界と魔界のトップ会談において、今後、二界の存在を徐々に人間界に開示してゆく方針が決まった。まずは昔から存在が囁かれていた霊界をゆっくりと認知させてから次に魔界を、だったハズだ。
「いいの、かなぁ?」
「いいんじゃない? 誰も気づいていないさ」
 彼女は未だ納得できない顔をしながらも、楽しそうな彼らの様子を見るうちに、次第に口元を緩ませてゆく。
「みんな、楽しそう……いいね」
「そうだね」
 実は、魔界から遊びに来た妖怪たちが手にするバスケットの中のお菓子は、みな同じものだったりする。バスケットには小さくコエンマ印が輝いていた。
「はい、Happy Halloween」
 蔵馬は彼女の手にも、子供たちが受け取っているモノと同じ、カラフルなクッキーが入った小袋を乗せた。
「え、これって……」
 目を丸めた環は、彼らが配っているモノと見比べてから、
「ありがとう」
 と、微笑んだ。
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