君そら 派生編 | ナノ
狩人さん、こんにちは 4


 時計が12時を告げ、二次試験予定時刻となった。試験会場に姿を見せたのは男女二人組による試験官だった。
「二次試験は料理よ! 美食ハンターのアタシ達2人を満足させる食事を用意してちょうだい!」
 試験官の一人であるメンチが威厳たっぷりに言い放つ。
「アタシ達が『美味しい』と言えば二次試験合格。試験はアタシ達が満腹になった時点で終了よ」
 つまり、一つ目の課題をクリアできたものだけが二つ目の課題に挑め、これをパスすることで、晴れて二次試験を合格できるとのことだ。
 だが、その内容が問題だった。
 意気込んでいた受験者たちは大いに戸惑った。料理が得意か不得意かと問われると、ほとんどの者が不得意と答えるだろう。ハンター試験の受験者はその性質からか、荒々しい筋肉ダルマ――もとい、猛者ばかりだ。
「まずはオレの指定する料理を作って貰うよ」
 もう一人の試験官であるブラハが告げる。受験者たちに緊張が走った。
「メニューは、豚の丸焼き! オレの大好物!!」
 と、第一の課題を発表した途端、受験者たちは一斉に走り出した。森に生息する唯一の品種――グレイトスタンプを見つけ、迷うことなく狩ってゆく。
 凶暴な獲物であろうと問題ないようだ。むしろ料理という当惑すべき困難な課題が、力押しで方が付いて助かった、といったところか。ハンター志望の猛者たちの本領発揮と言っていい。
 食材を得た彼らは、その後もやはり力押しよろしくワイルドに調理をスタートした。しばらくすると、あたり一面にいくつもの煙が立ち上がる。
 肉の焼ける香ばしい匂いが漂いはじめると、

 ――とっても上手に焼けました〜!

 謎のBGMがあちこちにこだました。焼けた豚を担いだ受験者たちは、我先にと試験官に特攻する。
 一人、また一人と合格していく中、環は捕えた子豚にじっくり火を通しながら頬を引きつらせていた。
「い、いいのかな? なんの処理もしてないみたいだけど……」
 本来なら血を抜き、毛を剃り、肉に汚物が付かないよう、もろもろの臓器を丁寧に取り除く下処理をしなければならない。豚の丸焼きも一応料理なのだ。寄生虫やウイルスなどの病原菌に感染している場合が多々あるため、生焼けにも注意する必要もある。だというのに、彼女の見る限りでは、ほとんどの者が下処理をしている様子はない。恐ろしいことに、血のしたたるレア状態で提出している者までいる。
「美味い、合格! これもイケル!」
 環の心配をよそに、ブラハはただの一つも却下することなく平らげてゆく。
「おかしいよね……」
 彼は本当に人間だろうか。かくゆう環が提出したモノも彼の胃袋に収まって合格を貰っている。が、喜ぶより前に彼の身体が気になって仕方がない。
「ああ、明らかにおかしい」
 ブラハの隣には食べ終えた大量の骨が積み上げられてゆく。蔵馬は(奇しくもクラピカ同様)食べた容量と彼の体積が釣り合っていないと真剣に考え込んでいた。

 環と蔵馬の二人は、摩訶不思議な審査風景をしばらく呆気に取られて眺めていたが、そろそろブラハの満腹が近そうだと気がついた。どちらともなくアイコンタクトを交わし合う。
「次の課題、どうする?」
 ワイワイと盛り上がる集団から距離をとった。
 環に問われた蔵馬はフムと考え込んだ。
 彼らは次の課題内容を知っている。その上、合格できる可能性が限りなく低く、仮に放棄したとしても再試験を受けられる――ハズだ、とも。
「正直、オレはあまり料理が得意じゃないけど、挑戦するつもりではいるよ。まったく何もしないというのも……ね」
 課題内容が想像通りだとしても、技術のない自分では合格できる自信はない。しかも場所が悪い。とはいえ皆が真剣に取り組んでいる中、何もせず傍観、というのは悪目立ちしてしまうだろう。無いとは思うが、受験の意思無しとみなされ、失格となっては堪らない。
「そっか、そうだよね……」
 蔵馬の意図を正確に読み取った環は同意を示したが、
「何か作戦でも?」
 考え込む彼女に、蔵馬は質問を重ねた。
「うん、ちょっとやってみたいことがあるの。でも私一人じゃ無理そうだから、協力してくれない?」
 背後に控えた森から、バサバサと大きな音を立てて野鳥が飛び立った。鋭い鳴き声が響き渡る。二人は声につられて顔を上げた。
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