君そら 派生編 | ナノ
もしくはこんな未来も 2 (by アキ)


「環ちゃまがお帰りになったって!」
「あら本当?どんなにお綺麗になられたのかしら、楽しみねぇ」
「それがなんでも妙な変化がお気に入りとかで・・・」

ピクリ、と外を歩く女性達の声――正確には聞こえてきた名前――に、反応した耳が恨めしい。
運悪く居合わせた兄には確実に気付かれただろう。
性質の悪い姉が居なかった事がせめてもの不幸中の幸いだろうか。

「行かんで良いのか?」
「何処へです」

無駄と理解しつつも条件反射で素知らぬふりをする。
それがまた相手の笑みを深くするのだと、理解しているくせに学習しない自分がある意味、不思議だ。
一度失敗をすれば、或いは誰かの失敗を一度でも見れば。
大抵の事には対応出来るようになる。学ぶ機会などただの一度で良い。
普通は一度では難しいのだと知ってからは自身の学習能力や応用力が優れているのだと認識をした。
ならばそれを生かさぬ手は無い。常に周囲を意識し、良いも悪いもあらゆる事象を取り込み、活用するようになった。
そんな自分に周囲は驚き、だが認め、そして称賛した。

―――肝心な所で何故その能力を発揮しない、オレ。

「環はもう巫女様の家だぞ。」
「久方ぶりの母娘の再会を邪魔しに行けと?」
「会いたくて堪らんと顔に書いてある。」
「目の病にはこの薬草です。眠る前、湿らせた手拭いで巻いて瞼の上に。」
「・・・翌朝、一晩中泣き腫らしたような目をした俺は心配する皆に何と言えば良いのだ?」
「環との再会に感動したとでも。」
「お前段々憎たらしくなってきたな・・・」
「ありがとうございます。」

そうそう玩具にされてたまるものか。
末弟というのは立場こそ弱いが、人一倍可愛がられる。良くも悪くも。
この兄はまだ良い方だ。憎たらしい等と言いながらオレの居ない所では「末弟の植物使いがまた上手くなった」と喜んでいるのを知っている。
一番上の姉も出来た人だと思う。気配り上手で落ち着いて包容力があって。
役割の違いや年の差等から直接関わる事は少ないが、ふと目が合うとふんわり微笑まれる。
どうにもむず痒いようなよくわからない衝動に駆られて目を逸らしてしまうのが常なのだが。
・・・問題のある兄弟といえば。

「蔵馬っ!お前のお姫様が玉藻様の家に来たぞ!」

ダダダッと騒々しく駆け込んできた。コレだ。
兄も流石に呆れた目を向けている。

「瑞穂、お前は一体巫女様に何を習いに行っているんだ。」
「舞。」
「・・・そうだな。」

一つ、息を吐いた兄はそのまま「今夜の段取りを確認しておくか・・・」と呟きながら行ってしまった。
切実にコレも連れて行って欲しい。

「聞いてるのか蔵馬。お前の嫁だろ?玉藻様の娘。」
「・・・環の事なら今夜の宴で嫌でも会う。」
「直ぐにでも会いたいだろーが。すぐそこに居るんだぞ。」
「別に。」
「うっわ可愛くねぇ・・・」

結構だ。
この姉が環とオレで遊ぶべく良からぬ楽しみを画策していたのには当然気付いていた。
油断さえしていなければ先刻のようなボロを出す事も無い。
・・・自分の家で油断出来ない日が来ようとは思わなかった。
今夜の宴はどう乗り切ったものか。今から頭が痛い。
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