君そら 派生編 | ナノ
「175 終わりと始まり」のIF話 3


 腕の中の彼女が身をよじったので、覚醒が近いのかと薄く目を開けた。窓から漏れる光はぼんやりとしており、起床するにはまだ早い時間だと伺えた。
「……どうした?」
「蔵馬、酷いこと言って、ごめんな……さい」
 寝ぼけているのだろうか。近頃まったく喧嘩らしい喧嘩をしていない事を含めて、トロンとした、未だ寝ているかのような口ぶりから、蔵馬はそのように考えた。
 やはり寝ぼけていたようだ。身を起こして、蔵馬の顔をまじまじと見た環は顔を染めた。
「ごめんなさい、間違えちゃった」
 何と間違えたのかと問うと「夢の中の貴方に」と答えた。どうやら喧嘩をしていたらしいとはいえ、夢の中でまで自分と会っていたと知らされた蔵馬は緩い笑みを浮かべた。
「どんな夢だったんだ?」
「すごく面白くて楽しい夢よ」
 環はクスクス笑った。
 彼女が語ったのは、およそ骨董無形な話だった。自分たちが人間界で人間として生まれ変わって暮らしていたのだという。それだけならまだしも、出会った仲間たちと人間界に仇名す悪者達を成敗したり、チームを組んで武術会に出場し、優勝までしたらしい。
「なんだそれは」
 夢の割には随分しっかりした話だ。しかも彼女に似合わない、かなりアクティブな夢だとも思った。
「すごく忙しなかったわ……他にも色々見たんだけど、もう忘れちゃった」
 夢だから仕方が無いとはいえ、少し寂しそうな彼女の頭を撫でてやった。
「まだ夜明けまで時間がある」
 もう少し寝ようと促すと、環は大人しく横になった。蔵馬の腕に擦り寄ってくる。
「……あのね」
「なんだ?」
「すごく不思議なんだけど、人間になった貴方とあの子の顔が良く似ていたの」
 あの子、と言われてすぐに思い至った顔がある。
「ウチのお姫様か?」
「うん」
 環が産んだ二人目の子だ。子供たちは昨日から叔母の、蔵馬の姉の家へ遊びに行っている。母親にソックリな長男と違って、長女はどちらかにソックリというワケでなかった。それでもそれぞれのパーツをよくよく見ればどちらかの特徴が伺える、そんな容姿の子であった。その子が、夢の中の蔵馬に良く似ていたという。
「やっぱりあの子は貴方の子なんだなぁって」
 すごく嬉しくなったの。そう言って笑う環に愛しさを感じた蔵馬は、再び彼女を腕の中に閉じ込めた。

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