「175 終わりと始まり」のIF話 2
私ってそんなに頼りなく見えるのだろうか。
「どうした?」
目の前には、手を差し出したまま首を傾げる美人のお姉さん――もとい、お兄さん。先日めでたくこの世界に生を受けて、初めての友達をゲットした。少し年が離れているが、私以外で唯一の子供である彼。それはいいのだけれど、話に聞いて、想像していた人物像と随分違っていたので、正直、少し戸惑っている。
「このくらい手を貸して貰わなくても大丈夫だよ」
善意からくる行為に構うことなく、えいっと飛び降りた。
「環!!」
彼は慌てたように私の名を呼んだ。だけど、たった30pの高さしかない石垣からのジャンプだ。いくら外見年齢が2〜3歳程度だとしても、まったく問題にならない。むしろこの身体は、昔の身体と違って驚くほど性能がいい。言い方を変えれば運動神経が良いのだ。妖怪の身体だからだろうか。だったら同種である彼も相応に運動神経が良いのではないかと思われる。それなのに。
「怪我はないか?」
「……大丈夫」
戸惑うというよりも、呆れが勝るかもしれない。彼の過保護ぶりに。
話に聞いていた彼は、知的で物静かで、自身の役割をきちんと理解し、ソツなくこなす大変優秀な子供だと聞いていた。だから友達になれたからといって、忙しい彼にしょっちゅう構って貰えるとも、ましてや――。
「ここからはオレがおぶっていくから」
そう言って背を向け、乗れと言う。里の大人たちの大半は、判を押したかのように優秀な子供だと彼を評していた。しかし中には冷たい子供だと言うヒトもいて――そのヒトに見せてやりたいくらいだ。だって彼はとても優しくて、とても面倒見のいい(少々過保護が過ぎる気はするが)お兄さんなんだもの。
今までは彼より年下の者が居なかったから、知られる機会が無かっただけじゃないかと思う。
「ほら」
私の足では目的地まで大変だからと(半ば無理矢理)背負ってくれた。いつもより遥かに高い視界に目を見張る。
「すごい、高い!」
身を乗り出した私に「じっとしてろ」と言いながらも、笑っているようで、身体が震えている。
「クラちゃん、ありがとう!」
私はいつものように世話になった礼を述べた。てっきり毎度のごとく「礼はいい」と言われるかと思ったが、
「……蔵馬だ」
返ってきたのは呼び方の訂正だった。友達の証に、これまで何度か『クラちゃん』と呼ばせて貰っていたが、ちゃん付けがイヤだったのかもしれない。
「ありがとう、蔵馬」
言われた通りに言い直したと言うのに、彼からは何も無かった。ただ少し、足を支えられる腕の力が痛かった。