番外)蔵馬と黄泉
「蔵馬、どうした?」
黄泉は自分を訪ねてきた蔵馬に目を見張った。珍しい。これまで彼が自分を訪ねてくることなど数える程しかなかった。組織を束ねていく上で上下関係をハッキリさせておいた方が円滑に回る。そう言われて納得したし、そのように振舞ってきたからだ。
蔵馬は盗賊団の総長で、自分は副総長だ。黄泉は彼の能力の高さをよく分かっていたので、副総長の立場に不満はなかった。あくまで今は、だが。
「また勝手な行動を取っただろう」
蔵馬は厳しい視線を向けた。予想内の言葉に黄泉は鼻で笑った。部下の居ない場でまで彼にへつらう理由は無い。組織発足の一人とも言える自分は、それが許されるだけの功績を立ててきた。彼との付き合いの長さも理由だ。
「そのお陰で相手の裏をかけたじゃないか。アイツ等の慌てふためく顔は見ものだったぞ?」
「……上手くいったのはたまたまだ。お前が急遽予定を変えたせいで部下の大半を失った」
「どうせまたすぐに増えるさ。オレ達の名は確実に上がっている」
力強く言い切る黄泉に蔵馬は目をすがめた。
「何度も同じことを言うつもりはない。二度と勝手な真似はするな」
黄泉は片手を上げて答えた。その口元はゆるく弧を描いている。蔵馬は自分の言葉が伝わっていないことを感じた。
「話は変わるが……以前言っていた事は本当か?」
「何のことだ?」
黄泉が聞きなおすと、蔵馬は珍しく視線を泳がせた。
「お前が、妖狐の子供を見たと言っていた事だ」
「ああ、あれか。あれは違った。恐らく犬か狼の妖怪だ。お前と同じ銀の髪と同色の耳を頭から生やしていたからそうかと思ってな」
仕留められていたら確認できていたが、と黄泉は薄く笑った。作戦の合間に戯れに目に付いた子供にちょっかいを掛けた。運良く逃げおおせた獲物を思い出して口角をあげる。確かに仕留めそこなったが、アレだけの傷を負ったのだ。持ちはしないだろう。
「そいつはオレと同じ銀髪だったんだな?」
「? ああ」
「そうか」
残虐非道で冷血と呼ばれる我らが総長も、同族には関心があるらしい。可愛いところもあるじゃないか。そういえばこいつの種族はすでに滅んでいたな、と思い出した黄泉は、去っていこうとする蔵馬に声をかけた。
「お前にはオレ達がいるだろう?」
蔵馬は振り返らずに「そうだな」とだけ返した。