君そら 派生編 | ナノ
番外)もう中学生


 オレの家のお隣に住む幼馴染は、小さな頃から霊が見える。その癖とても怖がりなものだから、よくオレに泣きついてきた。

 両親のみならず、彼女の家系は霊感の『れ』の字も無かったらしい。にも拘わらず子供だけそのような体質を持って生まれたものだから、彼女の両親は彼女が小さな頃は随分心配して、色々な霊能者の元へ連れて行ったと聞いた。

 オレと再会する前の話だ。

 後からソレを聞かされてギョッとした。彼女が霊を見るのは、人間として生まれ変わった肉体に備わる霊感もあるかもしれない。だが一番の理由は、魂が人外の、妖狐のモノだからだ。

 彼女の本性がバレやしなかったのかと、過去の話だというのに冷や汗を流したが、心配は杞憂だった。どの霊能者も彼女の霊視能力を抑える術を知らず、霊との付き合い方を学ばせるに終わったらしい。

 彼女は依然妖狐としての覚醒の兆しを見せなかった。オレですら妖気を感じられ無い程、かつての自身をその身に深く眠らせている。それが幸いしたのかもしれなかった。

 とはいえ、案外名の売れた霊能者も大したことがないんだな、とコッソリ胸を撫で下ろした。


「秀ちゃん……」


 明日から中学生だというのに、オレの幼馴染は未だに霊が怖いと言っては泣く。

 公言していないものの、元・妖狐であるオレにも普通に見える。かと言って、彼女のように怖がることはない。姿を見せる大半が、自分が死んだことに気付かないまま、死んだ場や思い入れの強い地に留まった結果、地縛霊となった者ばかりだ。

 そんな地縛霊も、霊界の案内人に腕を引っ張られて強制的にあの世へ運ばれてゆく姿を見たことがある。人に仇なす者など、ほんの一握りであって、一々恐れる必要はない。

 コッソリと彼女にオレも同じように見えるけど、大丈夫だよと言ったことがある。以来、益々オレに頼るようになってきたのは、正直…………かなり、嬉しかった。

 だが、いつまでもこのままではいけない。

 彼女を守ると誓ったが、万が一を考えると、そろそろ彼女も自分で身を守る術を身に付けなくてはならない。

 でないと大変宜しくない。というか、勘弁してほしい。


「何が怖いの? 君の部屋には何も居ないよ?」


 あくまで気休めにではあるが、彼女の部屋には高名と冠の付く霊能者のお札が飾ってある。ソレを言っても彼女は頭を振るばかりだ。


「違うの……また苛められるかもしれないと思うと、怖くて……だから、いい、かな……?」


 彼女が俯くと、色素の薄い髪がオレの目に飛び込んできた。そうかと理解する。彼女の両親は国際結婚をしており、父親は外国人だ。他の子供と比べると色素等に少々違いがみられる。

 子供は他者の小さな差異を見つけては手柄のように囃し立てるものだ。

 先日まで通っていた小学校での生活を思い出しているのか。オレが睨みを利かせていたので、あからさまな手段に出るものは居なかったが、陰口までは抑えきれなかった。

 震えながらオレの袖を握りしめてくる。その手を取っていいよ、と思わず言いそうになる口を噤んだ。


「オレ達はもう中学生になるんだよ? いつまでも一緒に寝るなんて出来ないよ」


 彼女にとっては厳しいだろうが、仕方が無い。というか分かってくれと切実に思う。

 今オレ達が話しているのは、夜も更けた、互いの部屋にシンメトリーのように作られたベランダだ。昔から親に内緒で互いの部屋によく行き来したものだが、小学校の卒業と同時にこの習慣も卒業しなくてはと思う。

 オレの言葉を受けて彼女がバッと顔を上げた。大きな目から次々と涙が零れてゆく。


 ……正直、卑怯だと思う。


 今日だけだと許可を出すと綻ぶ様な笑顔を見せた。それだけで心臓が喧しく騒ぎだした。


++++


 珍しく『彼女』が夢に出てきた。しかも珍しく、素直に甘えるようにオレにすり寄ってくる。


「蔵馬、大好きよ」


 『オレ』は彼女を腕の中に閉じ込める。見事な金の髪を一房すくい上げて口づけ、そのまま彼女の耳元に唇を寄せて囁き返した。くすぐったいのかクスクスと笑っていた彼女が、ふとオレを見上げた。潤んだ瞳に捉えられる。

 オレはいつものように彼女をそっと横たわらせ、彼女の纏っているものを剥いでゆく。そしてその豊かな胸に――。


(あれ……?)


 いつもと感触が違う。と思い、閉じていた瞼を持ち上げた。


「なっ……!!!!」


 オレの下には金の髪の彼女ではなく、淡褐色の髪の、発育途上の幼馴染がいた。

 胸元がすっかり肌蹴てしまっているというのに、余程深い眠りの中にいるのか、ピクリとも動かない。

 夢現に散らした花が、暗闇の中にも関わらず、これでもかと存在を主張している。顔に熱が集まるのを感じながら、オレは急いで彼女のパジャマを戻した。

 情けない自身を落ちつかせようと部屋を出る。やはり一緒に寝るのはもう止めようと固く決意しながら。

 そして考える。彼女が胸の痣に気付いてしまったら、何と言い訳をしようか、と。

 その日はそれ以降、一睡もできなかった。
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