御礼小話 1
〜妖狐恋人時代〜
「貴方は植物使いだからかな。花の香りがするね」
「そうか?」
「かすかにね」
もっと香るようになったら、花と間違えて蝶や蜂が寄って来ちゃうんじゃないの?
笑う彼女を、蔵馬はお前はどうなんだとやや強引に引き寄せた。
「私は無臭でしょ?」
「そうだな、コレのせいか」
二人の周りを緩やかに巡る風に、彼女は頷いた。
香を焚いてもあまり意味なくて、と苦笑する。そんな彼女の首筋に蔵馬がずいと鼻をよせた事で、彼女は飛び上がりそうになった。
驚きながらも擽ったいと顔を赤くして身をよじる彼女の首筋を、蔵馬はぺろりと舐める。
「オレよりお前の方が花だな。こんなにも甘い」
〜現代〜
「すっかり春だねー」
麗らかな陽気を浴びて彼女がクルクルと回りだした。余程機嫌が良いらしい。
その様を眺めていた蔵馬はクスリと笑う。
「ずいぶん暖かくなったね、そろそろ桜が咲きそうだ」
「楽しみだね、やっぱり春と言えば桜だもの。……ああ、そういえば」
口元を押さえて楽しそうに笑い出した彼女に蔵馬は首を傾げた。
「どうしたの?」
「うん、ちょっと思い出しちゃって」
彼女が語った懐かしい話に蔵馬は「ああ」と声を漏らした。そういえば、そんなこともあったなと懐かしく思う。
まだ二人が小さかった頃だ。桜が散ってしまったと泣き出した彼女に、蔵馬は沢山の花を贈った事がある。
「あの時は記憶が戻って無かったから、貴方の言う『手品』のタネが分からなくて、そっちばかりを気にしちゃったけど」
とっても綺麗だったって、今でもよく覚えてるの。ありがとう。
花のようにふんわりと笑う彼女に、蔵馬は目を細めた。
「じゃあ、今日はコレかな」
そう言って渡した花は、春を告げる連翹(れんぎょう)の花。
※連翹の花言葉:叶えられた希望