ラブコメで20題 1-5
デートに誘われた。
今度のお休みに。予定も無いのに断る彼女は居ないでしょう? 勿論、私も直ぐさまOKした。
「ふふっ」
ついつい顔がにやけちゃう。友達の亜由美ちゃんに気持ち悪いって言われたって、なかなか笑みが引っ込まないのは仕方がない。一応、私だって恋する乙女なのだ。
そしてデート当日。
あれやこれやと考えて決めたデート服に身を包み、いざ出発。お隣同士な私たちだけど、今日は待ち合わせることにした。ちょっと無理を言って私がお願いしたの。
だってね。
「環」
彼が私を見つけて、微笑んでくれる。この瞬間がたまらなく好きだから。
1.だから待ち合わせが好きなんです
「少し、早かったか……」
オレは腕時計を眺めて空を仰いだ。不思議な気分だ。人間として生きてきて随分経つのに、今でもそう思う。
騒がしい雑踏の中に居ても背後を気にする必要のない、平和な世界。
何気なく人通りを眺めていたら、ふと目が捕らえた。これは感覚の性能とは関係ないだろう。きっと何処にいても目に留まる存在。
オレが彼女の名を呼ぶと、彼女もオレに気づいて微笑んでくれる。花のように綻ぶソレを見て、ああ、待ち合わせるのも悪くないなと思う。
「お待たせ、待った?」
「いや、今来たところだよ」
お決まりの台詞を返して、彼女の手を取る。すると一瞬彼女が強ばったので、どうしたのかと問う。
「あのね、今変な音が聞こえた」
「変なって、どんな?」
それはね、と彼女がオレの耳に唇を寄せた。
2.きゅんって音がするらしいです
今日は映画を見る予定。先日公開されたばかりの話題作。
アクションはそれ以上の動きが出来る私達にとってはあまり面白くないし、ミステリーは、二人で考え込んじゃって変に白けちゃう。
だから、今日見るモノは笑いあり、涙ありのヒューマンドラマ。
映画も大詰め、となった場面で私は思わずハンカチを握りしめて身を乗り出す。さっき拭ったばかりなのに、また涙が頬を伝いそうになった。
再び目尻にハンカチを当てながら、隣をチラリと見ると、顔を俯けて震える蔵馬の姿があった。
(く、蔵馬が、泣いてる……!?)
3.正直こういう展開を待ってました
確かに良く練られたストーリーだと思と思う。小気味良いテンポに所々できっちり抑えられた笑いのツボ。配役の熱の籠もった名演技にも一見の価値があった。
それらが相まって『泣ける』映画との謳い文句通りに、クライマックスでは観客の大半が涙を誘われていた。
だが、オレは正直隣に座る彼女の反応を見ている方が楽しかった。
サクラも彼女程のリアクションは取れないじゃないか、と思うほど、映画を作成した側にとって狙い通りの反応を見せる彼女。
コメディ映画を見に来た筈じゃないのに、オレは笑いを堪えるのに随分労力を使う羽目になってしまった。まぁ最も、バレたら怒られるのはオレなんだけど。
そしてクライマックスの大詰め。
グッと彼女は身を乗り出した。ハンカチを握りしめ、感覚の全てをスクリーンに持って行かれているようだ。それはいい、それは。
だが。
思いっきり(しかも踵のある靴で)足を踏まれたオレは、今度は精一杯痛みに耐える羽目になってしまった。
だから決してそうではない、と主張してみても、聞き入れて貰えなかったのには納得がいかない。
4.照れ隠しと思ってもいいですか
映画を見終わった後、お茶しようって事でお店に入った。
メニューを決めて待っている間に、さっき見た映画の感想を彼に振ってみたけど、曖昧に笑うばかり。
寝ていた様子も無いし、最後なんて感極まっていたようなのに、と首を傾げる。そんな私に気づいた彼は、慌てたように卓上に設置してあったモノに話題を変えた。
「まぁまぁ、オレも映画は面白かったと思うよ。それより、随分レトロな占い機だね。やってみない?」
彼の様子に私は益々首を傾げたが、彼はお構いなしにさっさと百円を投入してしまった。
百円を入れて星座占いが出来るらしい、丸い物体から出てきた用紙を受け取って覗き込む。
「……へぇ」
「何か面白いことでも書いてあった?」
「うん。ほら、ココ見て?」
私が指さした箇所を認めた彼も、「そうなんだ」と笑みを零した。
そして、じゃあそうしようかって、二人で笑い合った。
5.あと3時間で恋に落ちる予定です