番外)彼女はミタ!
私の恋人はお隣に住んでいる幼馴染みだ。幼馴染みだけあって、彼との付き合いは長い。
彼はいわゆるイケメンで、お勉強も出来て、スポーツも万能。
ちょっと変わっている所といえば、前世の記憶があって、生まれ変わる前は妖怪で、今でも特殊能力を持っている。その上、裏社会に招待された武術会にチームで出ただけでなく、あまつさえ優勝までしてしまった。
……正直変わっている所の方が目を引いて、前述した人間としての能力が霞んで見えるような?
でも、それって私にも当て嵌るんだよね……自分で言っててなんだけど、変わった人間なんだよ……ね。
閑話休題。
その彼の特殊能力というのは『植物』を使役する力。私から言わせれば、とっても便利で羨ましい能力だ。
だって自分の意思一つで植物を操れるだけでなく、育てるという過程を飛び越えて成長させられるワケでしょう? イザってときは自給自足可能じゃない。農薬の心配もない。そっか、種さえ手に入れられれば高級野菜や果物も食べ放題なのよね。羨ましい……。
閑話休題。
そんな特殊能力を持つ彼だけど、その能力に起因するのか、彼にはある趣味がある。
『園芸』だ。
しかも普通に種を鉢に植えてからじっくりゆっくり育てている。彼の能力を考えると、余計な手間と時間を掛けている事になるから、酷くまだるっこしく見えてしまう。
だけど、考えてみれば趣味ってそんなものよね。きっとその手間と時間を楽しんでいるのだろうと私は理解していた。
この時までは。
「さ、君たちにもバレンタインだ」
彼に用があって、彼の部屋のドアをノックしようとした私の耳に届いた彼の言葉に首を傾げる。
そっと部屋の中を覗いてみると、信じられない光景が広がっていた。
(植物が、チョコを、食べてる!?)
なんと彼が育てている(ちょとグロテスクな)植物たちが、彼が差し出したチョコレートを頬張っているではないか。
いや、そもそも植物が頬張るって表現もどうなの!? と、私は脳内で慌ただしいツッコミをいれながらも、眼前の光景が信じられずに固まってしまった。
その間も、目の前の信じらない現象はドンドン進んでゆく。
美味しそうに食べ進めていた植物たちの中の一つが、プルプルとその身を震わせたと思ったら、おもむろに。
ペッと頬張ったモノを吐き出した。
と思ったのも束の間。その隣の鉢はシュウシュウと煙を上げ出したではないか!
「えーーーーーーーーー!?」
ここに来てとうとう声を上げてしまい、こっそり伺っていた私の存在に気づかれてしまった。彼はしまった、という顔で私を見たあと、渋々といった様子で彼の部屋へ案内してくれた。
彼の様子も気になるところであるが、やはり一番に尋ねたいのは。
「あの……この子達、大丈夫?」
彼が精魂込めて育てていた園芸植物さんの安否が気になった私は、まず一番にソレを尋ねた。
彼は肩を竦めて「相手の方が上手(うわて)だったようだ。まだまだ改良の余地ありだな」と私の問いに対する良く分からない回答をくれた。
相手? 改良? 私は首を傾げるしか無かったが、机の上に彼が与えていたチョコレートの包み紙らしきモノを発見した。
きっと元は可愛らしくラッピングされたモノ達だったのだろうと、推測される証拠と言えるもの。そして今日の日付を考えると、導き出される答えは簡単だ。
「さっき貴方があげてたのって、バレンタインで貰ったチョコ?」
私の問いかけに、蔵馬はバツが悪そうに頷いたのだけど、それがどうして……あれ、もしかして? 私はピンときた答えに苦笑した。
「もしかして、女の子から貰ったバレンタインチョコをこの子達で証拠隠滅しようとしてたの? 私はそこまで気にしないのに」
彼がモテるのは知っている。今更じゃないかという意味で言ったのだが、彼は深い溜息を付いて腕を組んだ。
「きっと君ならそう言うと思ったんだけどね……。ただ捨てるのも忍びないし、何より年々パワーアップしている威力をコイツ等の性能を図る為に使わせて貰っていたんだ」
パワーアップ? 性能? そういえば、いくら普通の植物じゃない(間違いなく魔界製と思われる)とはいえ、普通のチョコレートで煙をあげたりするだろうか?
つまり……行き着く答えに私は頬を引き攣らせた。
「あのチョコレートって何が入っていたのかなぁ?」
「さぁね、少なくともオレは手作りで貰ったチョコレートは絶対口にしないよ」
「そ、そっか……うーん……」
持ってきた小袋を後ろ手に隠して私は早々にお暇する事にした。
「じゃ、私はそろそろ帰るね」
バイバイ、と言いかけたところ、いつの間にか傍に居た彼に隠していた小袋を取り上げられてしまった。返して、と言っても聞き入れて貰えないどころか、呆れた視線を向けられる始末だ。
「君にまで当て嵌るワケないじゃないか、いい加減理解欲しいね」
なんて彼は言ってくれるけど、やっぱりね。
「ちょっと、コーティングに失敗しちゃったから、恥ずかしくて……」
彼の手にあるカップケーキサイズの小ぶりなザッハトルテ。一応力作ではあるが、仕上げのチョコレートコーティングが歪になってしまった。それでも受け取ってくれた彼に照れくさい思いをしながら、ありがとうと礼を述べると、彼もこちらこそと礼を言ってくれた。
何だか気恥ずかしくなってお互い笑い合っていると。
「「あ」」
例の園芸植物が、彼の手からひょいと――。
++++
「いいのかなぁ……」
自分の左手首を眺めて、さっきから同じことを繰り返してしまう。結局、余分に作っていた分で間に合わせる事になったバレンタインのお返しにと、彼から貰ったブレスレットが私の手首に嵌っている。
とても可愛らしくて、私がよく覗く雑貨屋さんに在りそうなデザインだ。
だからてっきり、それなりのモノだと思っていたんだけど。先程見つけた数字をもう一度確認する。
「Pt950……」
おかしい。
元々幼馴染みの彼との付き合いは長い。だから、彼は特にアルバイトをやってる様子は無かった筈だと、私は独りごちた。
植物に詳しくない私が、彼の部屋にあった園芸植物の数が定期的に増減していたなどと、知る由もなかったのだ。