君そら 派生編 | ナノ
狩人さん、こんにちは 3


 長い長い階段の頂上にようやく光が姿を現した。出口は近い。

 蔵馬が久しぶりに感じる陽光の眩しさに慣れてきた頃には、永遠に続くかと思われた人工的なトンネルが湿地帯に変わっていた。

 試験管が足を止めたので、受験者も皆その足を止める。


「少しだけど休めそうだ。大丈夫かい?」


 蔵馬が問いかけると、環は「大丈夫」と答えて流れる汗をハンカチで拭った。少し息が上がっているようだが、彼女もただの人間ではない。本当にダメなら正直に言うだろうし、意地を張るほうが後々厄介だという事を分かっている筈だ。

 ただ、二人共制服のままこちらに来てしまった。マラソンには不向きな格好だ。環がしきりに足を摩っているのは、革靴で長時間走った為に靴擦れしたのかもしれない。


「治さないの?」


 不思議に思った蔵馬が問いかけた。彼女の治癒の力ならば、その程度は容易いだろうと思ったのだ。

 環は頭を振った。


「見られちゃマズイかもと思って」


 確かに自分たちの能力は、念能力と違うとはいえ、いや、だからこそ念能力者達の前では披露するべきではないだろう。


「それじゃあ、後で」


 彼女と小声で話終えた蔵馬は、目の前で展開されていた試験管に取って代わろうとしたサルの喜劇を眺めながら、頭を回転させていた。


++++


「恩返し?」


 環が足の治療を終えてから、徐ろに蔵馬が持ちかけた。キョトンとした顔で彼の言葉をそのまま反復する。

 理由を聞くと「君を見つける為に協力して貰った礼がしたい」と説明された。どうやらザパン市で一緒に聞き込み調査をしてくれたらしい。それで環がハンター試験を受けるのでは、と知ったそうだ。

 それなら自分が断れる訳が無いと、環は了承した。


「具体的にどうするの?」

「大それた事をするつもりはないんだ。ただ彼らが二次試験会場に辿り着ける可能性を上げようと思って」

「ふーん……?」


 一つの可能性を考えて環は眉を寄せた。


「もしかして、あの変態さんの足止めをしようとかって言うんじゃ……」


 どうやら環はヒソカが苦手らしい。名を呼ぶのが嫌だからかもしれないが『変態さん』呼ばわりも中々どうして、と思いながら蔵馬は苦笑して違うと否定した。


「いや、そうじゃない。本当に些細な事なんだ。そもそもこの試験で起こる事象は全て彼らの成長を促す要素だと考えている。それを邪魔するつもりはない」


 彼らが指しているのは、ヒソカがこの後行うであろう『試験管ごっこ』だ。蔵馬が恩を受けたゴン、クラピカ、レオリオの三人はこれに巻き込まれることになる。

 特にレオリオは手痛いダメージを受けた。ゴンとクラピカもダメージこそ受けはしなかったが、この騒動で案内役の試験管からはぐれてしまう。ゴンの並外れた嗅覚がなければ二次試験会場に辿り着けない事態となるのだ。

 因みに、呑気に話し込んでいる蔵馬と環の二人も試験管からはぐれ、別行動を取っていた。だが彼らにとってみたら、はぐれてしまった方が都合が良かった。

 環が人目を気にせず治療を行えたのもその為だ。

 ゴールである二次試験会場は、環が風を使えば探せるので問題無かったし、人目が無ければ蔵馬も思う存分力を使える。

 首を傾げる環に、蔵馬は笑って「直ぐに分かるよ」と言い残して彼らの元へと急いだ。


++++


 その後、二次試験会場前で蔵馬と環、そしてゴン、クラピカ、レオリオの無事な姿を見かける事となった。(レオリオの顔面を除いて)

 ただし、ヒソカは『たまたま』活発に光合成をしていた花から、大量の花粉と匂いを受けていた。カラフルなピエロから黄色一色にカラーチェンジする羽目になった彼は、二次試験の開始まで時間がある事を知るやいなや沐浴に出かけて行った。

 鬼の居ぬ間になんとやら。受験者たちは大いに肩から力を抜いたのだとか。
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