企画 | ナノ
オレと幼馴染み


「メイちゃん、ぼくねメイちゃんのことすきだよ」

「ありがとう、しゅうちゃん。わたしもしゅうちゃんのことすきだよ」

「じゃあつきあってくれる?」

「え?」

「コイビトになることをつきあうっていうんだって。だからメイちゃんぼくとつきあってよ」

「……ごめんね、しゅうちゃんのことはすきだけど、コイビトにはなれないの」


++++


 ジリリリリリリリリリリリ……

 けたたましく鳴る目覚まし時計を若干強めに、叩くように止める。久しぶりにあの時の夢を見た。今朝は夢見が悪い。まったく悪夢だ。締め切っていたカーテンと窓を開けて、清々しい朝の空気を取りこんでみたけれど、気分はスッキリしなかった。

 だからといって時は待ってくれない。意識は先ほどの夢に持っていかれっぱなしだが、体に染みついた毎朝のルーティンワークを無意識にこなす。母さんに行ってきますと告げれば、あとは学校に向かうだけだ。

 家を出てわずか10歩。

 チャイムを鳴らして待つことしばし。


「おはよう、秀ちゃん!」


 元気な挨拶と共に顔を出したのは、生まれたときからと言っても過言ではない15年ずっと一緒にいる幼馴染みだ。


「おはよう、メイ。学校に行こうか」

「うん、お迎えありがとね」


 今日はオレ、明日は彼女、そして次の日はまたオレが。いつの頃からか、何の約束もなく始まって、そして今でも続いている習慣だ。同じ地域に住む子供は確かに同じ学校へ行くものだが、中学生にもなって、まして性別も違うというのにオレ達のこの関係は今でも続いている。

 初めはそれを知った思春期真っ盛りのクラスメート達にこぞってからかわれたりもしたが、今では当たり前の風景として見慣れてしまったようだ。

 いつもの通学途中の何気ない会話を弾ませながら、時折声を立てて笑う彼女を横目でみる。今朝見た夢の頃から数えて、丁度10年後の彼女。

 パッチリとした目に、小ぶりで可愛らしい唇。笑うとできるエクボ。あの時の面影は今でも残っているものの、子供特有の丸みを帯びていた輪郭はほっそりとし、背も髪も随分伸びた。手足もすっかり伸びきって、襟口から覗くのはブラウスよりいっそう白い肌。更にその下の、日毎存在感を示すようになってきた……


「…………」

「……?おーい、秀ちゃーん、聞いてるー?」

「あ、ああ。聞いてるよ、今日提出の課題だろ?ちゃんとやってきたさ」

「さっすが!ねぇねぇ、最後の一問、難しくなかった?自信ないから学校で見せてくれない?」


 意識がけしからん方へ進みかけていた事を悟らせることなく、幼馴染みのお願いに快くいいよと返す。


 あいしているひとがいるから。
 だからしゅうちゃんとはコイビトになれないの。ごめんね。


 あの時。随分ませていた自分は僅か5歳にして、初恋の女の子に告白をした。しかし、結果は見事に玉砕。

 しかもその時は幼かった事もあり、彼女に八つ当たりの言葉を浴びせようとしたのだが――――。


 ごめんね、ごめんなさい。


 そう言って泣き出しそうな顔をして謝る彼女に何も言えなかった。自分が犯しかけた失態を恥じることもだが、そんな顔をさせてしまったと、大きな罪悪感を感じたことを今でも覚えている。

 だからといって、あれから10年経ったからといって、諦められる理由には成らないが――――。


「秀ちゃん!もう、秀ちゃんったら!!」

「え、……何?メイ、その薔薇は?」

「どーしたの?今朝はボーっとしてばかり。この薔薇だってさっき私達の目の前で花屋の吉野さんがお裾分けしてくれたじゃない」

「……そうだっけ?」

「そうだよ、もう大丈夫?体調が悪いなら今日休んだ方がいいんじゃない?」

「……とか何とかいいながら、メイは何をしてるの?」

「えへへへへ、貰った薔薇を秀ちゃんの胸元に飾ってます」

「何でオレ?花を飾るなら女の子のメイの方だろう?」

「……そんな事ないよ、秀ちゃんの方が、ずっと……似合うよ」


 なぜだ?
 なぜここであの時のような、泣きそうな顔をする?

 花?……薔薇の花に何かあるのか?


――知らない。オレは、君と生まれてからずっと、15年間一緒にいた筈なのに。君にそんな顔をさせる理由も、まして……君が言っていた想い人のことも。

 オレでは駄目なのか?

――メイ。


 言うべきではない、のかもしれなかった。だが、もう押え込めていることなど出来やしない。オレの口は独りでに、彼女にずっと問いたかった、長年の思いを口にした。


「……メイは……以前、言っていた人のこと……ずっと忘れられない?今でも好き、なのか?」

「秀ちゃん……?」

「メイ!メイ、オレは「秀ちゃん!!」」


 オレの言葉を遮ったメイは、泣きそうな顔そのままにクシャリと笑った。


「……あのね。好き、よりもっと。愛している、愛しているの。ずっとずっと」


 ね、蔵馬。





















++++


お詫びの後書き。

おおう、なんと中途半端な終わり!
ハッピーエンドにも、アンハッピーエンドにも転がりそうなラストにしてみました。

環さんにとって、秀ちゃんと蔵馬はイコールじゃないんですね。

記憶のない普通の人間・南野君を考えるのが楽しかったです。
リクエストを下さった匿名様、宜しければお納めください。

ありがとうございました!
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