企画 | ナノ
文化祭ファイト


 昼飯を食ったら最高に眠くなる。正に今日はそんな日だった。
 季節は紅葉が色づく秋。春眠と肩を張るんじゃないかってほど、昼寝をするにはうってつけの季節だ。
 しかも今は昼休み。誰に遠慮することなく、あたしは夢の国にダイブした。
「浦飯ィ!」
 のだが。
「浦飯ィ! 起きろ! 勝負だ!!」
 耳元でキャンキャンと喚かれたら、眠れるものも眠れない。
「懲りないなぁ、お前も……今は眠いから後でなぁ」
 桑原が勝負を吹っかけてくるのは珍しくない。これまで数えきれないほど挑まれ、数えきれないほどの勝利を収めて来た。正直、同じ結果になるのが目に見えている。奴との勝負に全く魅力を感じないあたしは、睡眠欲を優先することにした。
「あ、コラ! 寝るんじゃねぇ! 起きろ! オイ!!」
 こいつは人の言葉が通じないのか? 穏便に断ってやったというのに。
「うっさい! 疲れてんだから寝かせろ、よ!!」
 最近はとにかく忙しかった。皿屋敷中学では来週末に文化祭が予定されている。ここのところ毎日、日が暮れるまで文化祭の準備。帰宅してから明け方まで霊界探偵の仕事。そして朝が来たらまた学校だ。いくらあたしでも、こうも連日連夜働かされ続けたら疲れもする。授業中に寝てたら竹センや螢子にコッテリしぼられるから堂々と眠るなんて出来ないしな。だから昼休み位のんびりさせろってんだ!
 と、喧しい桑原を一撃で静かにさせたあたしは、今度こそ夢の国にダイブした。


++++


 所変わって、日もとっぷり暮れた時間の、とある廃屋で。
「あ、そうだ、飛影」
 いつも飛影は用が済めばさっさと帰っていた。と思いだして、さっきまで奴が居た場所に顔を向けた。
 が、すでにその姿はない。
「え? あ、居た! おい待てって!」
 早くも帰る態勢に入っていた飛影は、部屋の窓枠に足をかけて飛び出そうとしていた。早すぎにも程があるだろ! 逃がすものか! と慌てて駆け寄った。
「何だ?」
 案外義理堅いのか、律儀に待ってくれた飛影にホッとして用件を口にする。
「ちょっと付きあってくれねーか?」
「付き合う? どこまでだ?」
「ウチの学校まで」
 ズシャァァァァ!!
「ん?」
 後ろから派手な音がしたので振り返ると、なぜか桑原が顔面からスライディングをかましていた。首を傾げたが、その隣にいた蔵馬が何でもないと手を振っている。どーせ桑原がバカやったんだろうと再び飛影に向き直った。
「文化祭があるんだよ」
「文化祭とはなんだ?」
「平たく言えば祭りだな。うちのクラスは喫茶店をやるから、客として来てくれねーか?」
「なんでオレが……」
「そー言うなって。ほら、このチケットやるから。タダ飯食いに来てくれよ。クラスの学年優勝を狙ってんだけど、集客数も大事なポイントなんだよ。頼む、あたしを助けると思って!」
 パンッと目の前で手を合わす。
「……チッ、すぐに帰るからな。だがこれで貴様への借りは無しだ、分かったな!」
「サンキュー! でも、お前に貸しなんてしてたか? って、もう行っちまった……気の早いヤツ」
 いつもの如く霊界探偵の仕事を行った後、いつもの如くヘルプに来てくれた飛影にお願いごとをしてみたのだが、一応聞いてくれるようだ。
 ノルマをひとつこなせた事に小さくガッツポーズしたあたしは、もう一枚こなすべく蔵馬の元へ向かった。
「なぁ、あいつら天然だよな?」
「ええ、間違いなく天然ですね」
 そこでは桑原と蔵馬がヒソヒソとよくわからない会話をしていた。天然ってなんだ?
 気を取り直して、ポケットからチケットを取り出す。
「蔵馬も予定が無ければ…………って、それ」
 蔵馬の手には、すでに別のチケットが握られていた。しかし、色が違う。ウチのクラスのものではない。
「オレのクラスのだ」
 桑原がずいと蔵馬の前に立った。
「蔵馬はウチの客だ。優勝はオレんとこが頂くからな。今度こそオレが勝つ!」
 意気込む桑原に首を傾げた。
「今度こそって、なんだ?」
 去年は勝っても負けてもどーでも良かったハズだ。
「てめっ、今度は文化祭で決着付けようって言ったじゃねーか!!」
 どうやら寝てるあたしに宣言して行ったらしいが、そんなの知るか。
「ま、両方行っちゃダメってルールは無いし」
 と、蔵馬の手にウチのクラスのチケットも握らせる。受け取った本人がにこやかに了承してくれたにも係わらず、外野(桑原)が卑怯だなんだとキャンキャン喚きだした。
 あたしは眠くて仕方がないんだが、こいつは本当に元気だな。と、半ばで適当にではあるが、
「分かった分かった。勝負してやるから、お前も頑張れよ」
 一応、勝負を受けてやることにした。それによって更にヒートアップした桑原は、負けた方が土産を肩代わりするって条件を出してきた。どんだけ力入ってんだよ。


++++


 文化祭はれっきとした学校行事だ。とはいえ、お祭りであるからか、お遊びが多大に入るしものだし、教師の目も甘くなる。
「さ、できたわよ。思ったとおりとっても素敵よ!」
 だが、こんな形で発揮されるとは思わなかった! 看板だの、メニュー表の台などをトンテンカンカン作ってる合間に、ちょっとでも被服担当を覗いておけばこんなことには! と頭を抱えたくなった。
「わー浦飯さん、似合ーう!」
「クラスの男どもなんて目じゃないわよね!」
「あたし、浦飯さんに給仕されたい!」
「アタシもー!」
「本当にかっこいい……」
 螢子をはじめ、クラスの女子からこれでもかってほどの賛辞を受けてはいるが、鏡の中の――髪を後ろに撫で付け、燕尾服を纏っているあたしは、盛大に顔を引きつらせていた。
「執事とメイドの喫茶店だったよな? なんであたしが執事の格好してんだ?」
 至極最もな質問をすれば、螢子はパチリと瞬きをして、「あっち」と指差した。
「うわぁ……」
 そこには、メイド服を来たクラスの男子たちの姿があった。恥ずかしそうに小さくなっている者もいれば、開き直って成りきっている者もいる。あ、あいつ化粧してるよ、やるなぁ。……お、目が合った。
 何となく、目のあったそいつと力なく笑い合った。
「もしかして、文化祭を決めるホームルームで居眠りしてた?」
「そうだっけ?」
 全く覚えがない。が、覚えがないということはそうなんだろう。決定した項目が書かれた黒板を見て理解した気になっていたが……。そういえばあの時、なぜか女子のテンションは異様に高かったが、男子は落ち込んでいたような?
「教えてくれたら良かったのに」
 あたしは未だブツブツと文句を言っていた。しかし、そんなあたしを気にするでもなく、螢子はじめ女子たちは「これで修学旅行の京都行きは決まったも同然よ! 頑張って!」とハッパをかけてきた。
 苦笑するしかない。
「わかったよ……。よし、任せろ! ウチのクラスが優勝だぁぁあああ!!!」
「「「「おーーーーーー!!!」」」」

「まぁ、そんなワケで本気出して負かしてやったんだ。諦めるんだな」
 クラスのメンバーが一致団結した結果、過去最高の集客数を集めた。間違いなくウチのクラスの優勝だ。
「クッ、京都だけは避けたかったのに……」
 負けを突きつけられた桑原が突っ伏した。
 メイドの格好をしたかったワケではない。が、執事を押し付けられた鬱憤晴らしを兼ねて優勝結果を桑原にひけらかしにきたのだ。
 しかし、桑原はなぜか別の意味でショックを受けているように見える。
 ちなみにウチの学校の修学旅行は三年の春にある。行き先は生徒の希望を募って決定されていたが、いつの間にか二年の文化祭で優勝したクラスに決定権が委ねられるようになった。とはいえ、突飛な場所の指定を避けるため、あらかじめ用意された候補の中から選ぶのだ。
「京都といえば、修学旅行の定番だろ? 何がイヤなんだ?」
「て、てめー、それでも霊能者か! マジでわかんねーのか!?」
「何をだ?」
 マジでさっぱり分からない。と、首を捻るあたしに、
「古戦場や処刑場のオンパレードだった場所だぜ? テレビの特集でさえあんだけ写ってんだ。現地に行ったらどんだけ見ることになるかと思うと……ウプっ」
 桑原は顔を真っ青にさせて口元をおおった。
「そーか。でも負けた方が土産を負担するって話だったよなぁ?」
 てめーは悪魔か。と言われたが、たぶんその時のあたしは、とてもいい顔をしていたと思う。
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