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願い


 この国は本当に不思議な国で、冠婚葬祭を執り行うにしても、その家々によってその方法が全く異なる。

 とはいえ葬儀の場合は、仏教形式で執り行われる事が多い。仏教による葬式が一般化したのは、江戸時代に始まった檀家制度からだったと記憶している。


(確かその頃は、黒い喪服なんて着ていなかったわよね)


 むしろ黒とは真逆の白い喪服を着ていた気がする。

 私が昔の記憶をなぞらえていたら、私たちの足元で僧侶が唱えていた読経が終わった。その後も順調に故人を葬る儀礼が進み、親族たちが一人、また一人と故人に別れを告げてゆく。

 その様は多種多様だ。泣きながら行う者、涙を堪えて笑顔を向ける者、自分より早く逝ったと言って、少し怒っている者までいる。

 実は故人に向けられる遺族の様子も、故人が死後に送られる世界を決める一因となっている。どんなに葬儀の形が変わろうとも、昔から変わらない、故人への最後の手向けだ。

 向けられる想いも、何ら変わらることはない。不謹慎ながら私は口元に笑みを浮かべた。


「貴女は、とても愛されてらしたのですね」


 私が隣の女性に声を掛けると、彼女も「私も愛しておりましたよ」と穏やかに笑う。


「如何でしょう。貴女は五七日(いつなぬか)までこちらに留まる事が可能ですが……」


 私が一応の説明義務を果たしていると、彼女はゆるゆると首を振った。


「もう十分です。あの世とやらにお連れください」


 私は頷いて彼女の手を取った。


++++


「想いは変わらない……か」

「ええ、確認できた事に嬉しくなってしまって」


 彼女達に分けて貰った温かな想い。自然に緩んでいく口元を隠そうと着物の袖口を持ち上げると、彼は私の手を取った。


「どうしたの?」


 彼の行動の意味が分からなくて首を傾げると、彼も笑みを浮かべながら「隠さないで」と言う。

 言われた意味を理解した途端、頬に熱が集中するのが分かった。それこそ隠したかったのだけど、彼に手を取られているのでそれも叶わない。


「忍君ったら、すっかり意地悪になったわね」


 私がそう零すと、彼は「そんなつもりはないよ」とまた笑った。

 彼――仙水 忍 と再会した霊界案内人である私は、暇を見つけては彼の元へ訪れるようになった。

 はじめは渋っていた彼だけれど、むかしのよしみだからか、めげずに何度も訪れれる私に音を上げたのか。昔のように受け入れてくれるようになった。

 自分でも不思議に感じるこの原動力は、きっと、彼の笑顔が見たくて通っているのだろう。一時期全く笑わなくなっていた彼が、昔のように笑ってくれるようになったから。

 だから。


「メイさん、何がそんなに可笑しいんだ?」


 堪えきれなくなって、また笑っていると今度は彼が不思議そうに聞いてきた。


「貴方の笑顔が好きだからよ」


 貴方を想う者が少なくともここに一人いるの。

 だから、どうか。

 本当は未だ硬い硬い殻で覆われた貴方の凍てついた心も、温かな想いを取り戻せますように、と。

 私は願わずにはいられなかった。



















※五七日(いつなぬか):小練忌(しょうれんき)とも呼ばれる亡くなってから35日目の事。霊界は閻魔様だけのようなので、閻魔様の裁きを受ける五七日まで現世に留まれる事にしました。仏教用語です。


++++


ライクル様

ご希望のハッピーエンド……は、正直この夢主では難しそうでしたので、事件発生前の小休止期間をクローズアップしてみました。

まだ幽助や桑原君達がランドセル背負ってた時期だと思います(笑)。

きっと仙水さんは、夢主の前では何の素振りも見せないけど、裏では左近さんとコンタクトを取ってたりするんだろうなーとか。カウントダウンに慄きながら書いてました←

少しでもご希望に添えてたら良いのですが(汗)。

素敵リクエストありがとうございました!
久しぶりに仙水さんを書けて楽しかったです(^O^)/
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