木漏れ日
おかしいなぁ、と零しながら環は森の中を彷徨っていた。いつもなら勝手知ったる帰らずの森で、しかも風に捜索対象を教えて貰える彼女が探しモノに困ることなどない筈だった。
しかし、探しても探しても見つからない。
――最愛の、息子が。
あとは凪が普段遊び場にしている場所をシラミ潰しに探しながら、声を張り上げるしかなく。環は場所を移しながら凪の名を呼び続けた。
「なっちゃーん、どこー?」
「ここーーーー!」
何度目かの呼びかけで、環の耳は凪の声を捕えた。ピクリと自身の耳を動かして方向を確認すると。
「上?……あ! 危ないっ!!」
声に反応して環が顔を上げると同時に、凪が降ってくる。かなり高い所からの跳躍だったので、彼女は咄嗟に風を起こそうとしたが、彼女の心配など全く必要ないとばかりに、彼は華麗に降りてきたのだ。
クルクルと身体を回転させてスタンと着地し、ポーズまで決めてみせた凪に、環はガックリと肩を落とした。
「なっちゃん、どこでそんなポーズ覚えてきたの……じゃない、貴方はまだは小さいんだから、こんな危ない事しちゃダメじゃない」
至って無事のようではあるが、環は念のためと凪の身体を調べてみる。掠り傷一つない息子に安堵して、危険な事はダメだと説いて聞かせてみるも、凪は彼女の言葉に大丈夫だと笑いながら返すだけだ。
「男の子ってヤンチャなものだけど、なっちゃんはとびっきりね」
「このくらい普通だろう?」
次いで軽い着地音と共に姿を見せた蔵馬に、環はビクリと肩を揺らせた。
「蔵馬!? いつの間に!? だって全然……」
彼が森へ来た時は、いつも風が教えてくれていた。すっかりソレに慣れていた環は、彼の突然の登場に心底驚いている。
目を丸くする母親を見た凪は無邪気な笑顔で彼女に飛びついた。
「うまくいった! オレが風にたのんだんだよ! オレたちをかあさんにしらせないようにって!」
成功した悪戯を褒めてくれとばかりに、凪は環に自分の成果を伝える。驚きはしたが、環は笑って彼を抱き上げた。
「そうなの、なっちゃんは凄いわね」
環が幼い息子の成長を褒めてやると、凪は嬉しそうに彼女の胸に頬をすり寄せてきた。環も笑みを深めて彼を抱きしめる。
一頻り母親に甘えた凪が、そういえばと環に問いかけた。
「体はもうへいき? おきてもだいじょうぶ?」
「えっ、ええ、もう大丈夫よ」
凪の問いに環は少々慌てた様子を見せるも、直ぐに「優しい子ね」と母親の顔をして彼の頭を撫でた。
その微笑ましい筈の場面を見て、蔵馬は笑いを押し殺している。
それに気づいた凪は不思議そうに首を傾げたが、ただちに行き着いた考えに父親を睨みつけた。
「またとうさんがかあさんをいじめたの? そんなことばっかりしてちゃ、きらわれるぞ!」
凪が随分とマセた事を言い出したので、蔵馬は一瞬キョトンとした顔を見せてからニヤリと笑った。
「そんな事はないぞ、母さんは父さんが大好きなんだ」
なぁ? 昨夜も、と蔵馬が言いかけた言葉を、環は強制的に自身の手で彼の口を覆い、遮ろうとした。
だが蔵馬は、そんな彼女の行動を読んでいたとばかりに、慌てて近づいてきた環を抱きしめた。抱き上げられていた母親に投げ出されて、彼女の風でフワフワ浮かんでいる凪は、「ほらな」と言って笑う父親に頬を膨らませる。
地上に降りた凪は負けるものかと蔵馬と環の間に自身の小さな身体を割り込ませた。
力いっぱい蔵馬に抱きしめられて、顔を赤く染めていた環は、これ幸いとばかりに蔵馬から距離をとる。
「かあさんはオレがまもるんだ!」と母親に抱きつく凪に環は感動し、蔵馬は肩を竦めた。
樹々の隙間から覗く陽光がキラキラと輝く、穏やかな昼下がりだった。
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サラ様
あれ? これって子育てになってますでしょうか?
一応ヒロインの取り合いっぽいのは入れられたかな?と思うのですが、リクエスト内容に添えられたかどうか激しく疑問です(^_^;)
こ、こんなんなりましたが、受け取って頂けたら幸いです!
リクエストありがとうございました!!