【刀剣乱舞】月夜烏・改 | ナノ
番外)現パロでコメディ話


 春の訪れを日増しに感じるようになった、ある日の午後。
 学校帰りの雅は、駅前を歩いていた。ここは高校と自宅を対角線上に結んだ中心あたりに位置しているため、電車通学でもないのに毎日通っているのだ。
 ちょうど電車が辿りついたのだろう。いつもは閑散とした静かな駅が、ザワザワと騒がしい。利用人口がそこそこしかいないドがつく田舎の駅なので、たかがしれているのだが。
 駅前に設置された地図の前に、トランクを持った青年がいた。しきりに辺りを見回している。ジーンズを履いたラフな格好だが、サックスのシャツにネイビーのPコートを合わせた、落ち着いた雰囲気の青年だ。年の頃は20代前半だろうか。
 通り過ぎようとした雅に気づいて顔を向けた。
「ああ、ちょうど良かった。よろしいか?」
「いいですよ」
 案の定、声を掛けられた。駅員に声をかけなかったであろう乗客の行動パターンは限られていた。駅前といっても売店もなければコンビニもない。駅構内に取って返すか自力で進むか、はたまた通行人に声をかけるしかなかった。
 雅は駅前を通るたびに声をかけられた。セーラー服姿なので、地理に明るい地元民だと認識されるのだろう。
「迎えにきてくれると聞いていなかったので助かった。よろしく頼む」
「は?」
 てっきり道を聞かれると思っていたのに、予想の斜め上にも程がある。
「では参ろうか、道はどちらだ?」
 男はニコニコと笑顔でトランクを抱え直した。
「どちらと言われましても……、あなたはどこに行きたいんです?」
「決まっているだろう? 家までだ」
「えぇと、帰るという意味ですか? 家はどちらです?」
「それがよく覚えておらんのだ、はっはっは」
 お前はボケた老人か! とツッコミたくなったがグッと我慢し、頭痛を訴える頭に手をやった。いっそ迷子として交番に連れて行った方がいいのかもしれない。
「だからお主が来てくれて助かった。久しぶりだな、雅ちゃん」
「…………え?」
 名を呼ばれた雅は改めて男を見た。が、サッパリ覚えがない。
「すみません、どちら様ですか?」
 可能性としては家に来たことのある客か、もしくは高校のOBか。それにしても『ちゃん』呼びをする者など、これまでいただろうか?

 ――雅ちゃんも一緒に休もう。ここは昼寝にうってつけの場所だな。
 ――茶菓子が欲しいなぁ。甘いものがあると、とりあえず幸せになるとは思わんか?

 そういえば、遠い過去に自分をそのように呼ぶものがいた気がする。年の割にジジくさく、マイペースでのんびりとした、変わった子だった。
 確か名前は……。
「俺だ、ミーちゃんだ」
「猫ですか」
「かつてはそう呼んでくれたではないか、いや、ハハ……」
 どうやら自分で言って恥ずかしくなったらしい。照れた様子で鼻の頭をかいている。
「ハァ……、私は一度も呼んだ覚えはありませんよ、三日月くん」
「おや、そうだったかな?」
 名を呼ばれた青年は、少し目を丸めた後、柔和に微笑んだ。
「随分、大きくなりましたね。はじめは誰か分かりませんでした」
 彼と会うのは何年ぶりだろう? 少なくとも十年は会っていない筈だ。
 自分よりも遥かに背の高くなった彼を見上げ続けていると、首が痛くなってきた。
「雅ちゃんは変わらないな」
「そうですか?」
「ああ、すぐに分かった」
 首をかしげる彼に、雅も首を傾げた。
「どうしました?」
「ふむ……少し縮んだか?」
「縮んでません!」
「はっはっはっは」
「笑い事ではありませんよ、まったく。……ところで、今回はどうしてこちらへ? お一人ですか?」
 彼の父、三条宗近は雅の祖父の古い友人らしい。その関係もあって、幼かった頃、彼の父の仕事 兼 遊びを兼ねてこちらへ来ていた三条一家と面識ができたのだが、記憶が正しければ彼らの住まいはここより遥か北だったように思う。簡単に来れる距離ではないはずだ。
「聞いていないのか?」
「何をです?」
「俺たちの見合いの話だ」
「は? お見合い? 誰と誰のですか?」
「俺と雅ちゃんのだ」
「……………………は?」
 ほら、と見せられた一筆には、見合いの内容と、三日月の父と雅の祖父の名が記されてある。ご丁寧に拇印まで押されていた。
「待ってください、三日月くんって確か……」
「雅ちゃんの一つ下だな。年下は嫌か?」
「年下云々よりも、あなたが17歳という方が問題です!」
「はっはっは、相変わらず雅ちゃんは真面目だなぁ」
「あなたがのんびりし過ぎているだけです! それになんです、このミミズがのたくったような字は! どうせ酒の席で適当に書いたに決まってます! お爺さまに確かめます、行きますよ!」
 と、腕を引っ張る雅に三日月が待ったを掛けた。
「待ってくれ、まだ土産を買っていないんだ。どこかで見繕って行きたいんだが」
「そんな暇はありません!!」
 結局、土産は買えなかったものの、三日月は雅に引きづられるように家まで案内された。

 その後、すったもんだの挙句、婚約したとかしないとか。三条の兄弟たちが押しかける大騒動となったのは、また別のお話。


Twitterのお題で出された『二人とも高校生の設定でお見合いで出逢うところから始まるみかさにの、漫画または小説を書きます』を実行してみました。お粗末さまでした!
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