【刀剣乱舞】月夜烏・改 | ナノ
12 迎撃


 着替えなければと思いつつも、一度ページをめくると止まらなくなってしまった。
「3番?」
 見覚えのある顔が出てきたので手を止めた。雅が居た時代よりも遥かに高性能のカメラで撮られたであろう三日月宗近が、紙面の中で微笑んでいる。刀帳番号とやらは3番らしい。
 彼の他にも様々な刀剣が載っていた。現在、政府に力を貸している刀剣の付喪神こと刀剣男士はゆうに50を超え、年々実装数を増やしているとのことだ。
「短刀、脇差、打刀、太刀、大太刀に……すごい、槍に薙刀まで」
 様々な時代の、数多の刀剣が集められている。しかも名刀・名槍ばかりだ。
「しかし、戦場に出すのなら……」
 折れる心配もあるのでは、と先だって危惧した事態を考えていると、気になる字句を見つけた。
「鍛刀に、分霊?」
 鍛刀(たんとう)とは刀剣の製造を指すが、ここに記述されている鍛刀とは意味合いが異なっていた。政府が用意した資源を用いて付喪神の分身霊(わけみたま)が宿ることの出来る、本物そっくりの依代(刀剣)を製造すること――本丸における審神者の勤めの一つだ。
「…………」
 祖父から聞かされた話の中では、このようなものは一切なかった。祖父が現役だった頃より後に確立された技術なのか、関係者にしか知らされない極秘情報なのかは分からない。
 分からないが、何とはなしに、未だ会ったこともない刀剣たちを哀れに思った。だが、自分がそう思うのは筋違いなのだろう。
 これから、審神者となる自分には――。
 ふぅと大きく息を吐き、今度こそ着替えようと服を手にとった。その時、けたたましいサイレンの音が響き渡った。
 何事かと守り刀を携えて部屋を出る。
 聴覚と感覚を研ぎ澄ませて異変を探ると、覚えのある気配を感じた。
「これは、邪気? ……まさか!」
 今までとは全く異なる動きを始めた歴史修正主義者たち。行動が予測できなくなったばかりか、いつまた襲撃を受けるか分からない。確かにそう聞いた。だがまさか、彼らの天敵ともいえる23世紀の政府の元へ攻め込んでくるなど誰が予測出来ただろうか?
 しかし、と思い直す。
 これは好機ではないのか? 歴史を正す、絶好の――好機!
 刀を握り締めた雅は、逃げる役人たちの流れに逆らうように進んだ。途中で押し戻されそうになったが、小柄な体躯を活かして人の波をすり抜ける。邪気の出処を追ってひた走った。
 辿りついた先には、初対面で鈴木と名乗った髑髏と、蛇や蜘蛛を思わせる骨の化物が溢れかえっていた。
「あら……こんなところにいらっしゃったんですか? またお会いできて嬉しいです」
 雅の姿を認めた髑髏は、邪気に塗れた鬼火をまき散らしながら、うっそりと嗤った。
「それはこちらも同じです」
 匕首を咥えた骨の蛇が一匹、矢のように飛んできた。
 咄嗟に刀を抜いて刃を受け止める。
 刃と刃が擦れ合って火花が散った。
 屋敷では障害物を用いて奇襲を狙えたが、ここでは違う。押し返すことが出来ない非力な身を忌々しく思いながらも、押してもダメならと、ふっと力を抜いた。
 後ろに倒れる拍子に体勢が崩れた相手の腹を蹴り上げ、すぐさま頭蓋に短刀を突き立てた。
「お見事ですね」
 雅に向けて髑髏が手を叩いた。
「聞きたいことがあります」
「何をでしょうか」
「あなたは『歴史は正さなければならない』と言いました。私はそれが知りたい。あなたが歪めた歴史の正し方を」
 ギラリと光る刃を向けた。
「そう難しいことではありませんよ、少し考えたら子供でも分かることです」
 ホホホと嗤う髑髏に向かって一足飛びで距離を詰め、一閃を放つ。が、難なく躱されてしまった。
「そんな小さな刀を振り回したところで当たりませんよ」
 隙をついた髑髏は、太刀の柄尻で雅の鳩尾を強打した。
「ぐっ……!!」
 咳き込みながらも距離を取った。
「どうして、……殺さない?」
 なぜ刃を向けてこないのか。
「私も聞きたいことがあるんですよ」
「……?」
「はい、はーい。そこまで!」
 軽い調子で待ったを掛けたのは、黒いコートを羽織り、赤いマフラーを巻いた青年だ。
「あんたが話に聞いた新しい審神者? 威勢がいいのはいいけど、俺の出番取らないでよね。ってなワケで、加州清光、入りまーす」
「あなたは……」
 声を掛けようとしたところで、ぐいと肩を引かれた。振り返った先にはボロ布を頭から被った青年がいた。
「……あんたは下がってろ」
「まったく、こんなところまで攻めてくるなんて、風流じゃないね」
 次に割り込んできたのは、大輪の牡丹を裏地にあしらったマントを羽織る、なんとも派手な男だった。呆気にとられていると、また新たに、負けず劣らず派手な男が二人、姿を見せた。
「まっはっはっはっは! わしらにまーかせちょけ!」
「適材適所、ってものがあるからね」
 雅を下がらせた五人は、それぞれの刀を手に、遡行軍へ向かっていった。その動きには無駄がなく、早い。あっという間に骨の化物たちの数を減らしてゆく。
「加州清光(かしゅうきよみつ)、山姥切国広(やまんばぎりくにひろ)、歌仙兼定(かせんかねさだ)、陸奥守吉行(むつのかみよしゆき)、蜂須賀虎徹(はちすかこてつ)……?」
 彼らは皆、資料に載っていた者たちではないか。
「遡行軍も間が抜けているな。ここは一番、守りの厚い場所だというのに」
「三日月、宗近殿?」
 静かに登場した三日月が、座り込んでいた雅の手を取って立ち上がらせた。
「梅小路よ、予定が繰り上がった。ここは彼らに任せよう」
 突如、彼の後ろに門が出現した。開かれた門の向こうには何も見えない、真っ暗な闇が広がっている。
「俺も共に行ってよいか?」
「え?」
「許可は降りたから心配ないぞ。共に行ってよいな?」
「は、ちょ……!!」
 返事を返す暇もない。強く手を引かれた雅は、なすがまま、深い闇へと吸い込まれていった。
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