君そら 改訂版 | ナノ
019 離脱


 玄武と白虎が倒され、四聖獣サイドは青龍と朱雀の二人となった。彼らは遠隔透視が可能な水晶を用いて侵入者の様子を見ていた。霊界から派遣された者達――霊界探偵の幽助を筆頭にした五人は、彼らの行き先を阻む数々の――迷宮城の名に相応しい――罠を難なく交わしてゆく。
「じゃ、桑原君せーので行くよ! せーの!」
「「左!」」
「次は右から二番目の扉だと思うんだけど、どう?」
「オレもそう感じるッス」
「じゃ、次は……」
 これまで数多の侵入者を阻んできた罠が、まるでクイズのようにお手軽に突破されてゆく。
「奴らの中によほど霊感の鋭い者がいるようですね」青龍が言った。
「ああ、最短の道を選んで我ら四聖獣の元に向かってきている……。と言っても、既にオレとお前の二人しか残っていないがな」
 笑う朱雀に青龍は、
「私は前座の二人とは違います。奴らを皆殺しにしてご覧に入れましょう」
 自身の忠誠を強く主張した。
 朱雀は「ああ」と返事を返すものの、先程からジッと水晶を見つめたままだ。青龍がどうしたのかと問いかけた。
「侵入者の名前だが、お前は聞き覚えがあるか? 妖怪の方だ」
「報告によると、三人の名は飛影、蔵馬、環、でしたか……いえ、私は存じませんが」
 朱雀も暫く考え込んで居たが、答えが出なかったようだ。
「ならばいい、オレの気のせいだったようだ。……行け」
「では」


++++


 双龍の石像が守護する物々しい扉を開けると、青龍が待ち構えていた。漏れ出した冷気が部屋を満たしている。一触即発の中、招かざる客がやって来た。先程桑原に倒された筈の白虎だ。白虎は仲間の青龍に助けを求めるも、彼は無残にも白虎を討った。
「弱者はいらん。利用価値のない負け犬はただのクズだ」
 無慈悲に言い切る青龍に、幽助はじめ闘っていた桑原でさえ怒りを顕にする。だが最も青龍の行為に不愉快を感じたのは――。
「オレが行く」
 飛影が進み出た。向かっていこうとした幽助に「その怒りは朱雀を倒すためにとっておけ」と言い、青龍に冷ややかな眼差しを向ける。
「……怒ってるね」
「ああ、冷たい中に鋭い怒りを秘めた目だ。以前の飛影なら青龍と同じことをしていたかもしれないが、今の彼は青龍の行為に怒りを感じている。飛影もそんな自身に戸惑っているようだが……」
 一呼吸おいた蔵馬は、
「はっきり言えることは、飛影を覆っている全身の闘気が今まで感じたことがない程強い」
 力強く断言した。
 全員が固唾を呑んで彼らの闘いを見守ったが、あっけなくも、勝負は一瞬にして決した。
 環が気づいたときには、青龍はバラバラになっていた。『バラバラ』にされていた事から、刀を走らせたのは一度や二度で無かったのは明白だ。しかし、何度か閃光が瞬いたようにしか見えなかった。
 蔵馬が飛影に何度切ったかと尋ねると、16回と答えている。
 吐きそうになる溜息を飲み込んだ。仲間に頼もしさを覚えると同時に、喝を入れて貰ったようだ。


++++


 一際高い笛の音が聞こえた。
(これは……虫笛!?)
 慌てて仲間たちを見たが、彼らは何の反応も示さなかった。元妖狐として覚醒した彼女ほど耳聡くない彼らには聞こえなかったのだろう。しかし、同じく元妖狐である蔵馬は気づいたようだ。
「さっきの、君も聞こえた?」
「うん、きっと四聖獣最後の一人・朱雀よね。このタイミングで鳴らしてきたってことは、もしかして」
 霊界を出し抜くどころか迷宮城に攻め入られた挙句、トップに君臨する四人の内三人までもが倒された。四聖獣サイドにはもう後がない。環の思考を読み取った蔵馬は頷いた。
「魔回虫、引いては人間たちを操って劣勢をひっくり返そうとしているかもしれない。一番に狙うとしたら霊界探偵である幽助に近しい人間だろうか……人質に取られる可能性も考えられる」
「やっぱりそうよね。なら虫笛だけでも早く壊さなくちゃ。人質を取られたら幽助はまともに戦えなくなる」
 だが、その虫笛を持っているのは間違いなく朱雀に違いない。今から向かうにしても時間との勝負になってしまった。
「ねぇ、蔵馬」
 続きを言いかけた瞬間、タイミングよくぼたんから通信が入った。彼らの予想は当たったようで、操られた人間たちが幽助のガールフレンドである蛍子を狙っているとの事だ。しかも混乱しているのか、幽助が詳しく話を聞く前に通信が途絶えてしまった。
 環は眉間に皺を寄せた。いくらぼたんが付いているとはいえ、向こうも大量の虫を投下し、なり振り構わず向かってきたのだろう。そうなれば多勢に無勢だ。ましてや螢子は唯の、普通の女の子だというのに。
「……私、彼女の所に行ってくるよ」
 こちらに居ても、どうせサポートしか出来ないのだ。ならば彼女のところで少しでも時間を稼いだ方がいい。環の提案に蔵馬は難しい顔をしたが、分かったと頷いた。今は迷っている時間も惜しい。
「君の結界は本来防御向きだ。あちらに行った方が有効だろう……だけど、くれぐれも無茶はしないように」
 幼い子供を諭すように言う蔵馬に、環も負けじと言った。
「分かってる、でもそれはこっちの台詞よ。またお腹に風穴開けられたりしちゃ駄目だからね!」
 さぁ、急がなくては。環は幽助達への報告を蔵馬に任せ、風を纏って飛んでいった。
拍手
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -