中編・Dead or Alive | ナノ
05 スコーピオン・デスロック


 コエンマの話に依ると、霊界大秘蔵館に入り込んだ三人組が秘宝を盗み出したらしい。しかもこの付近に逃げ込んだとのことだ。
「それって、マズイのか?」
 コエンマが焦る理由が分からない。泥棒がお宝を盗んで逃げたと言われてもなぁ。普通は隠れて大人しくしているものだろうし、捕まえるのは探偵じゃなくて警察じゃないのか?
「非常にマズイ! もしも盗まれた秘宝が悪用されたり人間の手に渡ったりしたら、多くの人間を傷つける事が出来る危険な武器に早変わりするのだ!!」
「なに!? それを早く言えよ!」
 とすると、母さんや螢子も危ないって事じゃないか! こうしちゃいられない! とコエンマと一緒に焦りだしたあたしを余所に、ぼたんが静かに問いかけた。
「コエンマ様、犯人はどんなヤツなんです?」
 そうだ、肝心の犯人はどんなヤツなんだ。あたしもコエンマに視線を向け直す。
「犯人は現在霊界犯罪人ブラックリスト1に挙げられている妖怪盗賊だ!」
 相手は妖怪なのか、と確認を取る前に。
「霊界探偵に成ったばかりの悠には早すぎますよ! 無茶な指令はダメって言ったじゃないですか!!」
「う、いや……ワシだって悠には小さな事件を担当させながら、徐々に修行を積ませるつもりだったわい。しかし、妖怪の犯罪は人間界に逃げ込まれるとワシの力では防ぐ事も捕らえる事もできんのだ! だから、悠!! 一刻も早く盗まれた秘宝を取り戻して奴らを捕らえてくれ!!」
「分かった! 任せとけ!!」
 安請け合いをするあたしに、ぼたんは心配だという顔をしたが、「母さん達に手を出す前にとっ捕まえてやる」と意気込むあたしに、嘆息した。
「あたしも精一杯フォローするよ」
 そう言ったぼたんは、犯人の詳しい資料集めの為にコエンマと共に霊界へ戻っていった。
「よし、パトロール開始といくか」
 大変な事態であるのにどこかワクワクした自分を感じながら、行動に移そうとしたあたしに水を注す――いや、水をぶっ掛けるヤロウが居た。
 イキナリ頭から大量の水を浴びせられて呆然としてしまう。身体も思考も止めてしまいそうになるが、ごく最近、似たような事があったと思い出した。
 いや、思い出すなんてもんじゃない。忘れてたまるか!!!
「桑原!! またてめェか!!!!」
 見上げる校舎の窓からバケツを蹴飛ばしたような音と、転けた後起き上がり、バタバタと駆け出して行く音が聞こえた。
 死んだあの日、同じように水をぶっ掛けられた。しかも掃除で使った汚れた水をだ!!
 反省の見られないあいつにもあの世を見せておくか。と、あたしはヤツを追いかけた。


++++


「ギブッ!!ギブッ!! 悪かったって!!今度はちゃんと捨てに行くからよ!!」
「あー? 前もそう言ったよなぁ? 確か真面目に掃除をするようになるまで教育的指導が五回必要だったから、未だ足りてねぇだろ。今回もじっくり身体に教えてやるよ」
 別に卑猥な指導をしているワケではない。怒りそのままに投げ飛ばしてから、うつ伏せになった桑原の脚を交差させ、ケツに乗っかって体を逆に反らせた。
 今回の指導は、昨日テレビで見たサソリ固めだ。スコーピオン・デスロックというカッコイイ別名もある。
 格闘技鑑賞は趣味の一つだ。昨日見たプロレスも実に熱くて良かった。毎回新しい技を試したくてウズウズしているあたしの練習相手になってくれる桑原にめいいっぱいキメてやる。雑巾臭くなった恨みだ。
 上手くキマったようで、足首、膝、腰だけでなく気道や横隔膜にもキたようだ。真っ赤な顔をして床をバンバン叩きだしたので、仕方が無いとゆっくり10を数えて開放してやった。
「殺す気でやったろ!!!」
「当たり前だろ」
「てめェは鬼か! マジで生き返ったと思ったらコレだ! だがな、オレが直ぐに地獄に送り返してやるぜ!!」
「そーゆう事は、一度くらいあたしに勝ってから言え」
「うるせぇ!! って!!」
 がなる桑原の後頭部に学生鞄の制裁を食らわせたのは螢子だった。
「桑原くーーん? また悠を水浸しにしたの?」
 タオルとジャージを持ってきた螢子は、着替えろと手渡してくれた。「言っていいことと悪いことがあるんだよ」と笑顔の螢子に懇懇と説教を受ける桑原を横目に教室を後にする。
 よく出来た幼馴染には本当に頭が上がらない。
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