中編・Dead or Alive | ナノ
02 アタック チャンス


「ところで、さっき言っていた生き返れるチャンスってのはなんだ?」
「あ! そうそう、それだよ!!」
 ぼたんに気になっていた事を聞くと、彼女はワタワタと慌てながら説明を始めた。
 仕事を忘れる程ショックだったのか? それはソレで落ち込むべきだろうか。
「なぜかあんたの死ぬ予定が無かったんだよ、変だよねぇ……これだけ文句無しに死んでるっていうのにさ」
 それはあれか。子供と螢子を助けて自分も余裕で助かって当然だったってのか。あの事故は。
(……そうかもしれない。油断しただろう、って地獄の説教コースか!?)
 それはヤバイ。すごぶるヤバイ。
 幽霊の身で汗など吹き出るハズもないのだが、あたしは自分の恐ろしい考えに薄ら寒さを覚えた。
 そうなると、取るべき道は一つだ。
(よし、生き返れるのならとっとと生き返ってしまおう! 死んだ事に気づかれる前に生き返ってしまわなければ!!)
 善は急げだ。丁寧に説明してくれているぼたんには悪いが、さっさと行動に移してもらうべく、彼女の肩に手を置いた。
「まぁ、そんなワケであんたには極楽にも地獄にも行き場が無いのさ……ちょっと!どーしたんだい!? そんな怖い顔をして凄まないでおくれ!!」
「悪い! だが急いでいるんだ! どうやったら生き返れるのか教えてくれ!」
「おや? 試練を受ける気になったのかい?」
「試練なんてもんがあるのか? 何でもいい、早くやってくれ!!」
 ぼたんは「せっかちだねぇ」と愚痴を零しながらも、あたしの手を取って、
「いいかい、離すんじゃないよー!!!」
 加速を付け、空高く舞い上がった。
 心の準備が出来ていなかったあたしは、突然の加速に気分が悪くなって吐き気に襲われるし、掴まれた腕が抜けそうだ! と胸中で不平を並べながら、グルグルと目を回した。(身体が無いからそんな気がするだけだが)

 ぼたんはあたしに、『あの世』の居場所は無いと言っていたような気がする。が、それは聞き違いだったのかもしれない。なぜなら、あたしが連れてこられたのは『あの世』で、死者の裁判官たる閻魔大王……ではなく、閻魔大王の息子のコエンマの前だ。
 もしかして、ご臨終しちゃうのか? と確認する前に。
「可愛いな、お前」
「うるさいっ! ワシを赤子扱いするなっ!!」
 と、言われてもなぁ……どうみても赤ん坊だろ?
 コエンマはブツブツと文句を言いながらも、試練とやらをくれた(ご臨終では無かったのかと密かに安堵した)。
 渡されたのは小さな卵だ。
「試練って、コレを食えばいいのか?」
「食うなっ!!」
 卵を渡されたらそう思っても仕方が無い。というあたしの考えが分かったのか、コエンマは深く溜息をついて「孵化をさせて育てるのだ」と説明した。
「ふーん……で、コレっていつ孵るんだ? やっぱ温めて無いとダメなのか?」
「いや、肌身離さず持っているだけでいい。そうだな、孵るのは120年くらいしたらか」
 120年!? あたしは目を剥いた。
「そんなに待てるか! こっちは急いでんだよ!! 何か方法は無いのか!?」
 あたし自身でも無茶な事を聞いている自覚はある。でも120年も経ってからじゃ母さんも、螢子も、みんな……皆もう居ない!
 生き返る意味なんて、無いじゃないか!!

「ははっ……よーし、孵ったな」
 渡された卵から産まれて来たのは不思議な形の生き物だった。霊界獣って聞いてたけど、みんなこんなヘンテコな形をしているのか?
 まぁ、何にせよ。
「おい、ぼたん! これであたしは生き返れるんだよな!?」
 ぼたんに声をかけるも、彼女は呆けた顔で霊界獣を見ているだけだ。おいおい、まさか案内人のくせに初めて見るのか?
「ぼたん! おい、何とか言えよ!」
「あ、ああ。そうだね、コレで生き返れるハズさ。きっともうすぐコエンマ様が……」
 ぼたんはまだ言葉を続けていたが、あたしは急に意識が遠くなっていってしまった為、続きを聞くことが出来なかった。
 次にあたしが目覚めたのは、自宅の布団の上だった。












「コエンマ様、あたしは悠がこんなに早く言われたノルマをこなすとは思ってませんでした」
 あたしが無事に身体に戻った事を空の上から見届ける者が二人。ぼたんとコエンマだ。
「そうだな、ワシも驚いておる。悠の両親は普通の人間だ。にも係わらずあやつの霊気量には目を見張るものがあった。霊体の身であの無茶な指令をやり遂げたのだからな」
「えぇ! やっぱりあの指令って無茶振りだったんですか!? 女の子相手に!? コエンマ様、酷い!!」
 あたしを心配してくれたぼたんの抗議に、
「無理を言えば大人しくなると思ってな……」
 コエンマは言葉を詰ませながらも、本音を口にした。
「でも結果的に、3日と掛からず生き返っちゃいましたねぇ」
 120年なんて冗談じゃない! と、あたしは必死に試練とやらをこなしたのだが、それが不味かったらしい。
「そうだな……よし、決めたぞ!! あやつには霊界探偵をやって貰おう!! ぼたん、お前はその助手だ!!」
「コエンマ様、女の子相手なんですから、あんまり無茶な指令はダメですよ」
「……分かっておる」
 あたしの預かり知らない所で、不穏な話が着々と進んでいた。
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