短編 | ナノ
君の温度で溶けてゆく【刀剣乱舞・鶴丸国永】


※少々ヤンデレ&刀剣破壊を匂わす表現があります。ご注意ください。











 空からまばらに、ハラハラと落ちてくるソレを手に取れば、あっという間に形を変えた。掌にできた小さな水たまりをしげしげと眺める。
「へぇ、これが雪か」
 驚きだな、といつもの口癖を口にすれば、短剣たちがけらけらと笑う。
「鶴丸さんがこの本丸に来てから、初めての冬でしたっけ?」
「この程度で驚いてちゃまだまだですよ」
 本格的な冬が来ると更に気温が下がり、見飽きるほどの雪が降り続くのだと彼らは言う。
 古い記憶が蘇る。しんしんと降り積もる雪景色の静けさ。物悲しさを。
「雪で真っ白になった庭も綺麗なんですよ」
「うん、そうだよね。春も夏も秋も綺麗だと思ったけど、ボク、冬の景趣も好き」
「でも何より「そうそう」「だよね!」」
「「「雪って楽しいよね!!」」」
 と、口を揃えて言うので、鶴丸は「何がだ?」と尋ねた。
「僕はウサギ!」
「かまくら!」
「合戦を忘れちゃいけねぇぜ」
「ははぁ、雪遊びという意味か」
 鶴丸が感心したように言うと、彼らは昨年、どんな遊びに興じたのかを熱く語ってくれた。
「主様も一緒に遊んだんですよ」
「主が?」
「ぼくらのあそびに、つきあってくれたんです」
「一緒に、こーんな大きな雪だるまを作ったよ!」
「ほぉ、それは楽しそうだな」
 白く染まった雪の庭で、審神者と短刀たちが顔を真っ赤にさせてはしゃいでいる様子がたやすく想像できた。普段の彼女は落ち着き払って見せてはいるが、子供っぽい一面を持っていることは知っていた。
「今年は鶴丸さんも一緒に遊びませんか?」
「ああ、いいぜ。楽しみだな」


*  *  *


 沢山雪が降ったら。
 彼らと交わした約束どおり、すっかり雪で覆い尽くされた真冬の庭で、鶴丸は雪との戦いを繰り広げていた。
「……鶴丸、何をしているの?」
 鶴丸の真後ろ――庭が望める縁側に、審神者がポツンと立っていた。
「ちょうどいいところに来てくれた。見てくれ、驚きの出来だろう?」
 誇らしげに胸を張る。以前聞いたものより、更に大きな雪だるまがようやく完成した。自分より背の高いソレを見上げる鶴丸の作業着は雪まみれとなっていた。
 笑ってくれるだろうか、と期待を込めて彼女を見る。
「鶴丸っ!!」
 しかし審神者は笑うどころか、血相を変えて彼の胸に飛び込んできた。彼の名を呼びながら泣きじゃくる。
「……どうかしたか?」
 鶴丸は慣れた様子で彼女を抱きしめ、背をさすった。
「あ、なた、が、雪に、消えてしまう、気がし、てっ」
 しゃくりあげながら不安を吐露する。その手は、離すまいと彼の袖を強く握りしめていた。
「おいおい、いくら俺の格好が白いとはいえ、雪と一緒にされちゃ困るぜ」
 自分は鉄で出来た刀だ。雪のように溶けはしない、と訴えても、彼女は嫌だ嫌だと頭を振るばかりで決して手を離そうとしない。
「あなたまで、いなくならないで……」
 涙と共に悲哀がこぼれた。
 鶴丸は口をつぐんだ。途端、静寂が本丸を包みこむ。今尚しんしんと振り続ける雪は、小さな雑音程度なら吸収してしまう。
 耳に痛いほどの静けさだ。
 かつてはあんなに賑やかで、騒がしかった場所とは思えない程の無音――……。
「俺は折れない。俺だけは君を残していきやしない。遡行軍の不意打ちだろうが、検非違使の強襲だろうが、全て返り討ちにしてやるさ」
 ひとり消え、ふたり消え。鶴丸以外の全ての刀剣がただの鉄と還ってから。毎日のように言い続けた言葉を、今日も彼女の耳元で囁く。
 俺だけは、必ず。
 審神者は無言できつく鶴丸を抱きしめた。自らの熱を、生命を、彼に分け与えるかのように。
 だから鶴丸は、言葉とは裏腹にこうも思う。
 君が溶かしてくれるなら、それも悪くないんだがな、と。



君の温度で溶けてゆく

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