王様の耳はロバの耳 8
「ほうほう、それで海藤君は超能力に目覚めたんだ。魂が抜き取られるなんて随分物騒だねぇ」
「超能力と言ってしまえばそれまでだけど、オレはこの能力に禁句(タブー)って名付けたよ。他の能力者の能力と区別する意味でもね。まぁ、早乙女さんが『敵』ならこの力を使うつもりだったんだけど」
「……はぁああああ!?」
なにさらりと爆弾発言しちゃってくれてんの!?
「私達の間にあった友情ってその程度だったの!?」
「友情なんてあったっけ?」
「こうしてわざわざ友達代表としてプリントを届けに来てる事実は総無視ですか!? 酷いヤツだな君は! 私のガラスのハートは粉々だよ!!」
「防弾ガラスの心臓だよね」
なんて辛辣!!!!
流石言葉のプロフェッショナル! いちいち選ぶ言葉が凶器だな!!
「まぁ、三文芝居はこのくらいにしてさ。さっき君が言ってた事って本当かい?」
「ああ、プリンセスって事? それがマジなんだなー」
残念ながらね。自分でも柄じゃない事だと重々承知しております。
「霊界の、ねぇ」
「海藤君は霊界の存在を信じる?」
あら、聞き方がどこぞのエセ霊能者っぽくなってしまったよ。言葉を選び損ねた私を、海藤君は半眼で眺めてらっしゃる。
「まぁね」
「へぇ、信じるんだ」
てっきり言葉の凶器でズバッと切って捨てられるかと思ったけど、意外だなぁ。
「……もちろん、事前知識が無かったらそんな胡散臭いモノなんて信じてなかったんだろうけど。オレの魂を戻してくれた霊能者から色々聞いててね」
もっとも、その時も話半分に聞いていたんだけど。と言ってため息を付いた海藤君は薄っすらと疲れを滲ませていた。
まぁ、無理も無いよね。
突然、よく分からない能力に目覚めて、その能力を試したら魂を抜かれて? 彼の友達がその霊能者に駆け込んで事なきを得たとはいえ、まだ能力に目覚めてから一週間も経っていないらしいし。
いくら頭が良くて飲み込みの早い海藤君といえど、超能力だ、霊能者だ、霊界だなんだと世界観が変わらざる得ない状況に追いやられた。きっと戸惑う気持ちを捨てられないんだろうねー。
「で、その霊界のお姫様がウチの高校で何やってるのさ。蔵馬って南野なんだろ?」
って、頭のいいヤツはこれだから困るな!!
切り替え早すぎでしょ!!!
もう暫く戸惑っててよ!!!!
一応(本音はともかく)表向きは潜入捜査なんだからバレたらマズいんだって!!!!
「って、あれ? でも、霊界の事がバレてるんだからいいのか?」
そういえば監視対象者本人以外にバレた場合ってどう対処すれば良いのか聞いてないや。
そもそも霊界の存在ってバレたらマズいの? マズくないの?
既に霊界の存在を知っている人の場合は?
うーーーーーん?
……ハァ、何かもう色々考えるの面倒になってきたよ。
「早乙女さん、気づいて無いようだけど、全部口に出してるからね」
マジか!
「うん、マジで」
「……………………」
「今更口を噤んでも遅いから」
「……………………」
「汗凄いね、そろそろ白状しちゃいなよ。それともオレの能力の実験台になってみる?」
「…………君ってヤツは」
本当に、私達の間に友情なんて無かったようだ。おねーさん、泣いちゃうぞ?
++++
とゆーわけで、洗いざらい喋っちゃいました☆
もっとも、例のトリップ?とかゆーのは流石に喋ってないけど。
「南野が妖怪ねぇ……君が霊界のお姫様ってのにも驚いたけどソレも驚きだな。それより、こんな大事な事、オレに喋って良かったの?」
彼のその言葉に私は大いにズッこけた。
「喋らせたの君でしょーが!!! 第一、君のその顔は驚いている人の顔じゃないからね!? もうちょっと表情作りやがれ!!!」
「脅したのはオレだけど、本当にそんな極秘事項を喋ってくれるとは思わなかったんだ。ごめんごめん。あと表情は放っておいて」
「謝罪が軽いわーー!!! んでもって反省した顔の一つでも作りやがれーー!!!」
取りあえず力いっぱいツッコミを入れたあと、私は拳を口の前に持ってきて、コホンと咳ばらいをした。
「まぁ、そーゆーわけで、このことは内緒にしててね。喋っても海藤君には何のメリットもないし、むしろバレたら君が大変だよ」
「それって脅してる?」
「結果的にそうなっちゃうのかな? でもこれって私ってゆーより、海藤君が死んだ後の心証を良くする為?」
「ああ……早乙女さんのお父さんは閻魔大王だったね。了解。その忠告、ありがたく受け取っておくよ」
「こっちこそ助かるわー。ありがとね、海藤君」
「いや、こっちこそ悪かったね。元はと言えば、オレを心配して見舞いに来てくれたんだろ?」
「……そういえば、そうだったね」
すっかり忘れてたよ。