ある日の昼下がり。食堂でルーナとホメロスは向い合わせで座っていた。紅茶を片手にそれぞれ違う本を読んでいる。
ルーナは魔導書を。ホメロスは戦術書を。
時折分からないことがあれば、ルーナはホメロスに尋ねて教えてもらう。定番化したやり取りだ。
そんな時、ぽつりとホメロスに尋ねた。
「ねぇ、ホメロス様"ぱふぱふ"って何?」
ぶっ!?ーー
ホメロスは紅茶を思い切り噴いていた。彼らしからぬその反応にルーナはぽかんとする。
「誰だ!お前にそんな言葉を教えたドブネズミは!」
口を拭くのもそこそこにホメロスは怒り顔でルーナに問うてきた。中々の語気の荒さにルーナは萎縮し、言葉を詰まらせる。
何気なしにした質問がまさかホメロスをこんなに怒らせるとは思いもしなかった。
教えられたわけではなく、たまたま耳にしただけなのだが、それを言っていた人物をホメロスに教えてもいいのか、やや躊躇する。
「……グレイグの部屋で聞いたの……こっそり部屋を見たらグレイグが本を読みながら"ぱふぱふはすばらしいな!"とか言ってたから、気になって……」
「あのムッツリ大馬鹿が……」
頭が痛いとばかりにホメロスは眉間を押さえる。ホメロスにそんな顔をさせる"ぱふぱふ"とは一体なんなのか。より一層気になってしまう。
「いいかルーナ。ぱふぱふなんて言葉は忘れろ。脳内から消せ。聞かなかった事にしろ」
「え?えぇっと、うん。わかった」
机越しに両肩を掴まれ、強制的に頷かされた。ルーナが頷いたのを確認してから、ホメロスは立ち上がった。
「あの馬鹿に用事があったのを思い出した。お前はそこで勉強していろ」
「あ……うん……」
グレイグの事を完全に"馬鹿"呼びになっているのは気にしてはいけないのだろう。恐ろしいほどの殺気を発しながら、ホメロスは食堂から出ていった。
その数分後に少し離れた場所からホメロスの怒声とともにグレイグの悲鳴が聞こえてきた。本当に何だったんだろう?
ルーナが"ぱふぱふ"の意味を知るのはもう少し年月が過ぎてからだった。
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