- ナノ -

15:作戦会議
任務期間を予定よりも大幅にオーバーして城に戻ると何やら兵士が慌ただしい。小隊に地下牢へ村人を入れるように指示をする。傷つけないように念を押しておくのも忘れない。

「何かあったのかしら……」

「どうせ悪いことだろう」

確かに兵士の気まずそうな顔から察するに良いことではないのだろう。詳しいことは陛下に報告と共に聞くとしよう。玉座の間に足早に入った。

陛下は今までに見たこともない怒りを滲ませた顔をしていたが、入ってきたルーナ達を見て怒りを引っ込ませた。その表情がいやに引っ掛かったが、問うことはせず報告を行う。

「只今戻りました。悪魔の子の証言通り、渓谷地帯に村の存在を確認。村はくまなく焼き払いました」

「うむ。あいわかった」

ルーナの報告に陛下は満足そうに深く頷く。胸に手を当て少し頭を下げた。

「帰城したばかりで悪いのだが……」

歯切れ悪い陛下の口調にルーナはなにも言わずにその言葉の続きを待つ。

「お前達が留守の間に悪魔の子と捕らえていた盗賊が逃げ出した」

「!それは誠ですか!?」

折角捕らえた勇者を逃すとはかなりの痛手だ。それに大胆にも城からレッドオーブを盗み出した盗賊までも逃がしてしまうなんて、牢番の兵士はこってり絞らねばならないようだ。それと牢番のシステムも改善するべきかもしれない。

「悪魔の子を再度捕らえよ。どんな手を使ってもよい。抵抗するならば殺しても構わぬ」

「「「はっ!」」」

三人揃って敬礼をして、玉座の間を出た。


「とりあえず会議が必要ね」

捕らえるにしても、情報がないのは困る。ある程度の予想はできるだろうが、確実な情報があるに越したことはない。

「ルーナ様!」

会議室へ向かう途中、背後から声をかけられた。補佐役の兵士のハーマンがルーナの帰城を聞き付けたらしく、ばたばたと足音を立てて駆けつけてきた。彼はルーナが受け持つ小隊の隊長だ。それなりに強さはあるのだが、どじっ子なのが玉にキズだ。

「もう少し静かにしなさい」

「は!申し訳ございません……!!」

玉座の間も近いのに騒々しい彼にルーナは注意した。のにも関わらず、大声で謝罪する彼にルーナは眉間を押さえるしかなかった。

「……はぁ……」

ため息をつくルーナにホメロスとグレイグが哀れみの目で見てくるのが辛かった。

会議室へ入り、各々好きな席へと座る。グレイグ、ハーマンはルーナの正面、ホメロスはルーナの隣だ。

「私が居なかった間のこと教えてくれるかしら?」

「はい!悪魔の子は盗賊と共に地下牢に穴を掘り、そこから地下水路を抜けて滝壺に身を投げて逃げたようです」

地下水路がかなり破壊されていて修繕費がかかりそうですね。と付け足された言葉に頭を抱える他なかった。悪魔の子も要らぬことをしてくれたものだ。

「すぐに滝壺周辺を調べ、街にも巡回兵を配置しましたが……捕り逃しました……」

「ふん、役立たず共め」

ホメロスの辛辣な言葉にハーマンは萎縮する。彼だけが悪いわけではないのだが、勇者はともかく苦労して捕らえた盗賊まで逃されたのは正直むかつく。

「その後足取りを探っていたのですが、それらしき二人組がデルカコスタ地方へ向かうのを見た、というのを旅の商人から聞きました」

「なるほど。神殿のレッドオーブをまた盗ろうとしているのか」

どこから情報を嗅ぎ付けてきたのか。レッドオーブは密かに神殿へと移されたはずなのに。ともかくレッドオーブを狙っているのは盗賊の方だ。おおよそ地下牢から出した礼に勇者を付き合わせているのだろう。

「なら、神殿に先回りするか?」

「今から出発したとしても先回りは無理よ。間に合わないわ。神殿を出た後、どちらに向かうかを考えた方がいいわね」

「わざわざデルカダールに戻るとは思えん。この旅立ちのほこらに向かう可能性はどうだ?」

会議室の大テーブルに世界地図を広げ、ホメロスが指す。
旅立ちのほこらはデルカコスタの岬にある小さな建物だ。以前調べた事があるのだが、門は固く閉ざされており何らかの魔法具を使わなければ開かないようになっていた。

「どうかしら……」

「悪魔の子の能力で開ける事ができるかも知れないだろう?」

ホメロスの言うことも一理ある。勇者の力は未だ明らかになっていないことが多い。あの勇者の星も学者が躍起になって長年研究をしているのにさっぱり解明されていないのだ。

「そうね……なら先手を打って旅立ちのほこらにいくべきかしら」

しかし、その場合逆側に、デルカダール地方側に戻られたら捕らえられない。様々な可能性を考えているとグレイグが口を開いた。

「ルーナ。旅立ちのほこらには俺が行こう」

「いいえ、私も行くわ。デルカコスタは見晴らしのいい平原地帯だし私の魔法が役にたつと思うの」

一人で隊を率いて行こうとするグレイグに待ったをかける。遠距離攻撃ができるルーナがいた方が何かと便利なはずだ。

話が纏まったところで、各々の準備のため立ち上がる。

「グレイグ。どちらが先に悪魔の子を捕まえられるか勝負だ。俺は俺で動く」

「ふっいいだろう」

「公務に私情持ち込まないでよ……」

こんなときにまで勝負を持ち込む二人にルーナは呆れる。ホメロスはともかくグレイグまでやる気になっているともう止められない。

やれやれとため息をついた。


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