▼ 憧れのままで
モデルで容姿オッケー、運動オッケー、勉強はまあそこそこオッケーな俺の憧れる人
憧れは天高く
バスケを始めて青峰という憧れができた。でも俺にはそれ以上の憧れの存在がいる
「はるか先輩…」
中学のときは仲良くしてもらってた二つ上の先輩
海常に入ってビックリした。まさか憧れの先輩が海常の在校生だとは思わなかったからだ
でももう2年も会ってないし覚えているワケがない。しかも学校1の美少女、モデルだろうが手が届かない高みにいる
覚えているわけないと自分に言い聞かせて、憧れを憧れのままで終わらせようと頑張っていた時だった
「、あっ……」
先輩だ。はるか先輩がスラッとしたモデル並の脚をスカートとソックスの間から覗かせて、こちらへゆっくり歩いて来る
心臓はドクドクと大きく脈打ち、今にも口から出そうなほど緊張している
「……」
通り過ぎてしまった。
先輩は俺に目もくれずすれ違った
ああ、もうこれでわかっただろう俺。俺は先輩の記憶の片隅にもないんだ
「ははっ…諦めろよ、俺」
廊下で一人、自虐的に笑うことしかできなかった
「あれ、笠松部活?」
「ああ」
「今年の新入生はどう?」
「ま、いつもよりはマシなのが一人いるくらいだ」
そうは言うが笠松の顔は何処か楽しそうで嬉しそうだった
指導しがいのある後輩を持てたようではるかも微笑んだ
「そうだ、たまには笠松のとこ行ってみようかな」
「はあ?お前、バスケ興味なかったんじゃねぇのかよ」
「笠松の言うその後輩クンが見たいからね」
ニコッと笑うと、笠松ははあ…と溜息をつき いいぜ、と了解してくれた
「ちはーっす!!」
笠松先輩がいつもより遅く体育館に入ると、練習していた部員たちは各々に元気良く挨拶をした
「私のことはお構い無く」
「おう、元からその気だ」
う、そだ…なんではるか先輩が…!
笠松先輩と仲むつまじく会話をしている。中学の頃とはやっぱ違うな……すごく、綺麗になってる
「おい黄瀬、ボケッとしてんなよ」
「は、はいっス」
はるか先輩に見られてると思うと集中できなくて、シュートもパスも全くうまくいかない
それどころか、はるか先輩はさっきから俺を目で追っている気がして歩くのも覚束ない
「今日はここまでだ!!1年はモップかけて帰れよ!」
「ありがとうございました!」
「黄瀬、今日の」
「…すんませんっス…」
「……体調管理はしっかりしろよ」
笠松先輩はポンと俺の肩を叩いて着替えに行った
どうにもこうにもはるか先輩がいるんだから仕方が無い。憧れの人の前でいいところを見せようとして、失敗ばかりして恥ずかしいし…
「あの…」
「は、はいっす!」
「もしかして、涼太…?」
「え、…?」
はるか先輩にもう一度名前を呼んでもらえた。嬉しい、どうしよう。胸の高まりが抑えられない
「はい、っす…覚えて、てくれたんスね…」
「カッコ良くなっててわからなかったよ…それに、涼太も海常に入学するなんて思わなかったからね」
泣きそうだった。ぐっと拳に力を込めて涙が流れないようにした。だってこれ以上ダメダメなところは見られたくないじゃないっすか
と自分の中でごちゃごちゃと考えている間に、デコに温もりを感じた
「再開のチュー」
「!!?!?」
もともとスキンシップは激しい方だったが高校に入ってまさかさらにヒートアップしていたとは…!
っていうか、こうやってキスを誰にでもしてないよな!!
「じゃあ私はもう帰るね」
「ま、また来てくれるッスか!」
「……もちろん!」
あああああ!!この上ない幸せ!はるか先輩のあのふわっとした笑顔が見られたなんて!もう死んでもいい!!
「っていうか笠松先輩ははるか先輩と同じクラスなんスよね…」
「無月?なんだ、お前知り合いだったのか」
「中学のときの先輩っすよ」
正しくは中学のとき(から憧れ)の先輩、だ
「あいつ最近元気ねーんだよ」
「え?なんでっすか」
「毎日毎日告白されて休み時間も休めないだとよ」
さすが学校1の美人…!!
俺には手の届かないようなところにいるんスけどね…トホホ…
「じゃ、練習始めるぞ」
「はいっす!」
「…黄瀬ぇ、聞いたか!?」
「何をっすか」
「はるか先輩、『好きな人がいるからごめんなさい』ってフってるらしいぜ」
コートにいた同級生の一人からこっそり教えられて、ドクンと心臓が跳ね上がる
はるか先輩が好きな人……ああああ!!なんて羨ましいんだ!!!
ッ、だめだ。憧れに想いを抱いては
「おら!そこ駄弁ってんじゃねぇぞ!!」
「す、すいません!!」
そいつに言われてからもう何も考えられなかった。はるか先輩に熱い視線をもらっているのはどこの誰なのかと
もしかして笠松先輩?いつも部活来ると真っ先に行くし、仲いいし…
「はぁ」
「あれ、笠松先輩は来てないんスか?」
「遅刻するだとよ」
珍しいこともあるものだ
あのバスケ一本の笠松先輩が練習に遅れるなんて
「お客さん」
「え?…あ、はるか先輩…」
はるか先輩は体育館に入ってキョロキョロと辺りを見渡す
やっぱり笠松先輩を探しているのか…
「こんにちはっす、はるか先輩。今日は笠松先輩遅れて練習入るみたいっすよ」
「ああ…そっか」
「じゃ、俺はこれで」
いつもみたいに笑えただろうか。あのはるか先輩の少し寂しそうな顔を見てもいつも通りに
「休憩!」
いつもとは違う号令がかかり休憩時間にはいる
はるか先輩はいつもと同じ場所に座っていた。そっと近づいて勇気を振り絞り話しかける
「隣、いいっすか」
「あ…どうぞ」
「…失礼しますッス」
それから会話が全くなかった。俺は何を話せばいいかわからず、思わず口に出てしまった言葉を後悔する
「笠松先輩来てないのに何で来たんすか?」
「何でって…」
「先輩たち仲いいし好きなんじゃ、」
「ぶはっ」
突然吹き出したはるか先輩に驚愕する。はるか先輩はくくくっ…と腹を抱えて笑っている
「笠松はない」
「でも好きな人いるから告白全部断ってるって…」
「それ、君のこと。涼太」
「へ」
思考回路ガ停止シマシタ。
俺の脳内ではその言葉がリピートしていた
「じょ…冗談きついっすよ。はるかせんぱ、」
「へぇ、信じてくれないんだ…」
ドサリ
その音と共に背中に小さく痛みが走る
「ちょっ…はるか先輩…何して」
「ん?押し倒しただけ」
だけって言ったよ。だけって!!
みんな休憩してるけどここ体育館だし!視線が痛いんですが!!
しかも男がこんな華奢な女の子に押し倒されてるって、俺はどんなへなちょこだ!
「信じてくれないならべろちゅーするよ?」
パコッ
痛っ、とはるか先輩は小さな声をあげた
「おい、無月」
「笠松じゃん」
「俺の後輩あんまいじめんなよ。」
「キャプテン…!」
でも次の瞬間にはその俺を助けてくれたというキラキラしたオーラもなくなる
「いじめていいのは俺だけだ」
「はあ!?私が好きなの知ってんだろ!」
「そりゃ毎日部活来ては『あー可愛いよね…涼太』とか言われたらな!いやでも記憶にインプットされるわ!!」
「ちょっ、てめっ!ここで暴露すんな!!あほ、はげ!」
「はげてねぇーよ!」
なんだか暴露大会のようなことになっている(笠松先輩の一方的な)
「あ、涼太これが私の素だから」
「何重にも猫かぶってやがるからな」
「うっせーよ」
「惚れたっす!改めて惚れたっす!!はるか先輩のそんなとこも全部大好きっす!!」
憧れは大好きに
prev / next